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各国で柔道に寄せられる期待

――ヨーロッパの第一線で長く指導を続けられてこられた経験から、これからの柔道が進むべき方向についてどのようにお考えですか。

試合だけではなく、もっといろいろな場面で柔道を活用していくべきだと思っています。私は5年くらい前から、カナダのバンクーバーで警察官向けのセミナーをやっているんですが、初めて指導したときに圧倒されたというか、感動してしまってですね。バンクーバーの警察は、これまでやっていた逮捕術を一切やめて、新しく柔道を採り入れたんです。安全かつ素早く容疑者をつかまえるのに、柔道が一番いいということになったそうです。柔道の活かし方として、この発想がものすごく気に入りましてね。今後も力を注いていきたいと思っています。
あとは自分の仕事としては、さっき話した北京オリンピックで銅メダルを獲った教え子、セルゲイ・アシュワンデンと言いますが、彼がスイス柔道連盟の会長になったので、そのサポートもしなければいけないと思っていますし、指導者への指導にも力を入れていきたいと思っています。

――現在、スイスでは柔道にどのような期待がかけられていると思いますか。

道場でしつけや教育をしてほしいという要望が増えてきていますね。共働きや一人親家庭が増えてきたことが影響していると思っています。学校で面倒をみきれない子や、引きこもりなど日常生活で困っている子に、柔道を勧める先生や医者も多くなったという気がします。
一方で柔道人口が減少しています。ケガが増えているのは大きな要因だと思います。今のルールでは、背中をバシッとつけないと「一本」にならないので、それを子どもにやらせるとケガをしてしまうんですね。それでやめてしまう。形のように投げることが、「一本」というふうにしていかなければダメだと思いますね。形のなかには、体捌き、組み方、姿勢、受身……すべてがあります。だから、せめて固の形と投の形だけは、乱取りと並行してやっていかないといけないと思いますね。

――これから海外に行きたいと考えている若い人たちへ、メッセージをいただけますか。

難しいなぁ。これまでたくさんの日本人に会ってきましたし、ヨーロッパでは日本人会を作って、助け合ってきたわけですが、人間的にいい人っていうとおかしいんですけど、お互いに協力しあえる人は、こちらでもうまくやっていっているように見えますね。自分勝手な人はやっぱりやっていけなくなってしまうんです。もちろん、柔道が好きだったら成功するとは思いますけど、やっぱり何かあれば助けあえる、そういう気持ちを持っていることが大切だと思います。

 

プロフィール

片西裕司(KATANISHI Hiroshi)
生年月日:1952年3月11日生まれ
出身:兵庫県
中学校からクラブ活動柔道部入部。
兵庫県明石市立二見中学校→兵庫県立同高砂高校→天理大学卒。
コーチキャリア:1974年〜1976年フランス柔道連盟、1976年〜2017年スイス柔道会ローザンヌで指導。
1979〜1985年スイス女子代表チーム、2013年~ヨーロッパ柔道連盟エキスパートで指導。
2016年~カナダ・バンクーバー警察官に向けたセミナーを行っている。
居住国:スイス(ローザンヌ)
ヨーロッパ柔道連盟エキスパート、スイス柔道連盟昇段審査員。
全柔連国際委員会在外委員。

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