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【女子柔道振興委員会】JJ Voice No.134:石井 孝法さん

プロフィール
石井 孝法(いしい たかのり)1980年 福岡県生まれ
了徳寺大学 教授
講道館柔道五段

主な活動歴
長期育成指針策定の共同責任者
2005年~現在 科学研究部として強化指定選手の支援
2021年~現在 NPOスポーツコーチングアカデミア代表理事としてスポーツ現場の支援

女子柔道振興委員会からの推薦をいただきました石井孝法です.
全日本柔道連盟のグランドデザインとして位置付けられました「長期育成指針」の共同作成者としてお声かけいただいたと思いますので,この場をお借りして長期育成指針の背景にある女性の重要性についてお話しします.

まず,私は大学院に入学するまで,柔道(競技)における男女の区別を意識したことがありませんでした.これは,幼少期から女子柔道が自然と身近にあったためです.私の故郷である九州・福岡では,柔道が非常に盛んでした.私が通っていた道場にも多くの女性が参加しており,私の進学した沖学園隆徳館中学校の柔道部には松田邦恵さんのような才能豊かな選手がいました.また,福岡大学附属大濠高等学校は男子校でしたが,福岡では福岡国際女子柔道選手権大会が開催されていましたし,大学時代にはその大会でボランティアをしながら谷(旧姓:田村)亮子さんのような選手の活躍を間近で見てきました.

しかし,筑波大学大学院に入学した際,目崎登先生(鈴木なつ未さんの回にも出てきました)の「女性スポーツ医学」という講義を受けて,女子柔道への意識が変わりました.2004年の講義ですが,今でも記憶に新しいです.目崎先生が「男子が寝てたら起こすけど,女子が寝ていたらそのままにする」と公言されていて,寝てる女子学生がいるたびに,月経前の催眠作用をホルモン(プロゲステロン)と体温上昇の関係(生理学的な視点)で説明されていました.さらに,女性アスリートの特有の健康問題(女性アスリートの三主徴)やエリートアスリートの月経タイミングをピルでコントロールする話などもあり,コーチングやスポーツ科学の知識としても「性差」を考慮することが重要であることを学びました.
その翌年の2005年に,私は強化委員会に設置されている科学研究部に入部しましたが,さらに「性差」を意識したサポートの重要性を実感しました.現場の支援をしながら「減量時のエネルギー不足」とパフォーマンスの関係性など,具体的に女性アスリート特有のパフォーマンスについて議論する場もたくさんありましたし,斉藤仁先生が強化委員長の時には「女子からは要望が出てきにくいかもしれない.科研から提案して,女子チームの支援を手厚くしていくように」という話をいただいたこともあり,意識を強めてきました.
しかしながら,20年近く経った現在でも,女性アスリートの健康問題やトレーニングプログラムの性差に対する理解が不十分な点があります.これらは長期育成指針でも取り上げられており,発育と性差の観点から問題解決を図る必要があります.
長期育成指針が広く読まれ,問題意識を共有することが,女子柔道のさらなる発展に繋がると思います.

ここまでは問題点に焦点を当てましたが,長期育成指針の本質的な部分にも触れておきたいと思います.
ここでは「女性」を強調してきましたが,どの業界や分野でも,特定の視点を持つと,そこには必然的にマジョリティとマイノリティが生まれます.柔道界で「性」という視点を持つと,一般的に男性がマジョリティ,女性がマイノリティとなります.さらに,LGBTQ+の方々を考慮すると,彼らは「多様な性」の観点からマイノリティになります.また,「障害」の観点から見れば,障害のない男女がマジョリティ,障害のある男女がマイノリティとなります.これは、身体的な障害だけでなく,精神的な障害についてもいえることです(心の障害については屈強にみえる男性でもマイノリティになるケースがあります).このように,視点によって,私たちはマジョリティでありながらも,マイノリティであることがあります.そして,個々人が自分自身をマイノリティだと感じる場合,それぞれの視点に基づく障害,すなわち「ディスアビリティ」が存在するといえます.ここでいう「ディスアビリティ」とは,社会生活(この場合は柔道界)において直面する困難,不便,不利益を指し,個々の機能的な欠損を意味する「インペアメント」とは異なる概念です.
重要なことは,どの視点からみても「ディスアビリティ」を明確に理解し,議論を深めることです.例えば,男女平等に関する議論では,「平等」とは具体的に何を意味するのか,また,どのように平等を実現するのかについて深く考える必要があります.その議論を進めれば,「選択」と「結果」の平等の重要性が挙げられるかもしれません.そして,どの国よりも進歩的な男女平等社会のスカンジナビア諸国の話が挙げられるでしょう.実は,平等主義が進むと男女差が開くことが科学的なデータからわかっています.こうなると「平等」の先に見ていたものは何だったのかという話になってしまいます.これは,「平等」が常に目標達成につながるとは限らないことを意味しています.そのため,私は長期育成指針の話をする際に,「合理的配慮(Reasonable accommodation)」を説明しています.ここでいう合理的(Reasonable)は「経済合理的」とか「目的合理的」といった文脈で用いられrationalではありません.「自己と目的を異にする他者から見ても『理に適った』といえる仕方で他者を尊重する態度に関わる意味」で用いられるreasonableな配慮です.重複しますが,私たちはマジョリティであると同時に,マイノリティでもあります.複数の主体が満たされる状態を探っていくことが合理的配慮の本質ですので,この合理的配慮を持って相互の利害調整をするプロセスが必要になります.そのプロセスでは「対話」が不可欠です.柔道界に存在するディスアビリティを明らかにし,積極的な対話を通じて柔道界の変革を目指すべきだと考えています.

最初に述べたように,長期育成指針における女性の重要性について強調して終わりたいと思います.
柔道は心身の力を最も有効に使用する道です.競技性はあくまでも手段に過ぎず,目的ではありません.私たちは,自己成長を続け、次世代の青少年の育成にも貢献しなければなりません.特に青少年の育成においては,家庭教育や社会生活の中での教育が重要な役割を果たします.この文脈において,女性の役割は極めて重要です.特に日本社会においては,青少年の内発的動機づけに大きな影響を与える存在としての役割があります.青少年の内発的動機づけは彼らの成長に密接に関連しています.したがって,女性と青少年の接点を改善することは,青少年に明るい未来をもたらす鍵となります.では,女性と青少年の接点をどのように改善できるのでしょうか.その答えは,柔道界に限らず,社会全体における女性のディスアビリティ(困難や不利益)を取り除くことにあります.これは私にとって重要なポイントであり,大学を辞めた理由でもあり,今後取り組むべき課題だと考えています.

長期育成指針(背景を含めて)は,女子柔道の重要性を認識し,その振興を目指すための基盤となるべきです.この指針が広く理解され,適切に実践されることで,女子柔道は更なる進歩を遂げると信じています.

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