サウジアラビアOSコース(三戸範之氏)報告(07.2.7)

サウジアラビアOSコース(三戸範之氏)報告(2007.2.7)

三戸 範之

1.開催場所
サウジアラビア、リヤド
2.期間
2006年12月18日~26日
3.派遣された講師
三戸 範之 (七段、秋田大学)
4.会場
 プリンスファイサル・イブンファハド・オリンピックセンター
陸上競技場、サッカー場、プール、体育館などからなる総合スポーツセンターで、敷地内の庁舎にはサウジアラビアオリンピック委員会ほか各種目の連盟事務 局が入居している。オリンピックセンターがあるのは、碁盤の目のように整備された近代都市リヤドの郊外で、アブドゥッラー現国王をはじめ王族の巨大な宮殿 が集中している地域の一角である。そのためこの一帯は、厳重な警備によりリヤドで最も安全であるとのことで、道路では検問があり、オリンピックセンターの 入口では小銃を手にした衛兵が車一台ごとにゲートを開閉していた。また、市内の喧噪とはかけ離れた、きわめて閑静な地域である。
柔道場は、オリンピックセンターの多目的体育館に柔道畳を設置してつくられた。コンクリートの上に直接畳をしいているので、強く投げるには少し弾性が不 足していたが、畳は新しく清潔で、98畳と広さは十分であった。また、体育館の近くには、講義室、ウェートトレーニング場、プール、サウナが整っていた。 宿舎は、オリンピックセンター内の合宿所で、会場や柔道連盟事務所に近接しているため徒歩で移動でき便利であった。
5.関係者および受講者
 講師は筆者が務め、アラビア語への通訳は代表チーム監督であるモハメド・ソベア氏が行なった。運営には、サウジアラビア柔道・テコンドー連盟の柔道部長アル・モアンマル氏、柔道専門秘書モハマド・ナセール氏が関わった。
受講者は、首都リヤドを中心に、遠くメッカやジェッダなど、サウジアラビア全土から来た18名の指導者である。日程が巡礼の近くとなったため参加できな い者がおり、参加者は当初予定した人数より少なくなった。受講者はすべて男性、40歳代が一名あとは19歳から26歳までの若手指導者で、サウジアラビア の将来を担うべき者を厳選したとのことである。ナショナルチームの選手に加え、落下傘部隊に所属する軍人、イスラム法学を選考し判事を目指している者や、 政府の奨学金によりフランスの大学院に近々留学する者など顔ぶれは多彩である。
受講者はセミナーの中で、指導された内容をなぞるかのように、熱心に反復練習していた。また、示範をビデオに収録するとともに、合間には各自が指導され た要点をノートに記録していた。参加者たちは、指導者として活動していくにあたり、自分の得意な技に偏らず多くの技について研鑽を積み理にかなった方法を 学びたいと語っていた。
6.講習の内容
 講習は、午前9時00分より11時30分まで、午後16時00分から18時30分までそれぞれ2時間半行なわれた。内容は基礎的なレベルの指導者講習 で、技の基本と応用、および練習法など実技講習を主とした。柔道の概要、審判規定、および傷害予防などについては講義の時間を設け、柔道連盟の指導者やス ポーツドクターの協力のもとに行なった(表1参照)。また、当地の宗教上の事情から、礼法は立礼のみとし、礼拝のために休憩時間をとるなどの配慮をした。
まず投技の基本動作であるが、受身は、初心者指導に生かせるよう段階的な練習法をとりいれて行なった。姿勢、組み方、体さばき、崩しなどはひととおり概 略を解説し、投技の練習のなかで必要に応じ触れるようにした。投技は、手技、腰技、足技、および捨身技から主な技を選び、静止した体勢からと移動動作から の掛け方について崩しに力点をおきながら講習した。投技の応用技能としては、連絡変化と防御の方法を行なった。練習法は、打込を中心に行なった。打込で は、受講生たちは引きつけようとする意識が強く最初から身体に力が入ってしまう者が多いので、動作を始めるまえにある程度力を抜いてリラックスする必要が あることを指導した。投技については全体を通して、崩してから掛けること、力の用い方と方向、間合いなどを強調して講習した。
固技はまず主な抑込技、絞技、および関節技の基本的な方法と逃げ方について解説した。抑込技については、受講生たちは力まかせに抑えようとする傾向が あったので、首や肩などを極めて抑えることや、相手の逃げようとする動作に合わせて力の方向を変えてバランスをとることに重点をおいて練習した。攻撃の方 法については、それぞれの技ごとに主な攻撃方法を学ぶこととし、最終的に、引き込んだ体勢から、ひきこまれた体勢から、および四つん這いや腹這いの相手に 対する方法に分けて講習した。
講習の合間には、乱取を行なった。全身に力が入りすぐに疲れてしまう者もいたが、さすがにナショナルチームの選手は体さばきがスムースで軽やかであっ た。相手を固定して力まかせに巻き込む技を掛ける者もいたが、総じて動きのなかから崩して技を掛けようとする意識がみられた。寝技の乱取では、引き込まれ ると脚をコントロールせずにいきなり首にとびついてくることが多かった。また、相手に抑えられそうになるとブリッジをして相手を跳ね返そうする傾向が強 く、えびを使って逃れる方法は得意ではなかった。そこで、引き込まれたときに相手の脚を固定・制御して攻撃する方法と、抑込技で攻撃されたときえびを使っ て逃げる方法を反復練習した。
柔道の概要と審判規定については、VTRを活用し講義をおこなった。審判規定は、国際審判員であるアル・モアンマル氏の協力のもと、場内外の変更に関す る新ルールに関して試合の映像を見ながら進めた。きわどい場面では、場内と場外のどちらに判断すべきか盛んに質問や意見があった。その他、ドーピングと傷 害予防については、サウジアラビアオリンピック委員会のスポーツドクターの協力のもと行なった。
7.現地の柔道事情
 サウジアラビアの柔道人口は連盟への登録者数が約1,500名である。クラブ数は12で、他に軍などで柔道が行なわれている。もともと格闘技の人気が高 いなか、近年打突系種目の人口は増えているのに対し柔道人口は減少傾向がみられ、柔道関係者は危機感を募らせている。石油大国のふんだんなオイルマネー は、一番の人気種目サッカーに多くが配分され柔道は予算的にも決して楽ではないそうだ。代表チームの海外遠征では、食料を持参し節約に努力していると聞い た。ところで、サウジアラビアでは連盟は柔道単独でなく、柔道・テコンドウ連盟である。柔道の普及発展のために、柔道関係者は、柔道出身者の連盟会長就任 を待望している。
代表チームは、湾岸諸国のなかではクウェートとともにトップの競技力である。これに、最近チュニジアやトルコなどからの帰化選手をかかえるカタールが加 わってきた。代表チームには若手に好選手がおり、1999年のアジアジュニアで2位が1人、アラブジュニアでは2002年に2名、2004年に3名が優勝 した。2006年ドーハ・アジア大会では、66kg級の選手が2勝し、大きな収穫を得た。これらの選手をシニアのレベルで、今後どのように強化するかが大 きな課題である。
サウジアラビアでは、前全日本柔道連盟事務局長・鳥海又五郎氏が、1979年から1986年まで、7年余にわたり指導にあたった。当時の教え子たちは、 現在連盟の幹部として活躍している。柔道界の不安定な時期に、鳥海氏がサウジアラビア柔道発展のためにつくされたことを、口々に語っていた。また、現在の ナショナルチーム監督はモハメド・ソベア氏で、ラシュワン選手らとともにエジプト代表として黄金期を担った1人である。ナショナルチームの強化だけでな く、国内大会の計画や運営などにも指導力を発揮している。1991年から1997年まで、そして2001年から再び監督を務めている。なお、ソベア氏は元 全日本柔道連盟事務局長・山本信明氏がエジプトで指導にあたっていた時の教え子である。今回は期せずして、日本の柔道家による大きな足跡に触れるものでも あった。
8.おわりに
 この時期のサウジアラビアは、最大の行事である聖地メッカへの巡礼を控えており、リヤド市街は明かりで華やかに飾られていた。お祭りムードとはいえ、サ ウジアラビアは、日に五回の礼拝、酒類は厳禁、女性は頭から全身を覆うなどイスラム教の戒律には厳格である。映画が禁止されているなどいわゆる娯楽は乏し く、国土の大半を覆う砂漠の中で過ごすのが、現地流のリラクセーションである。休日には筆者もこれを経験し、赤い砂に覆われた実に清潔で美しい風景が広が るなかでの、甘いなつめ椰子と強烈なスパイスの香りがするアラビアコーヒーは格別であった。また、石油大国、イスラム教発祥地として有名なサウジアラビア は、夏季には気温が摂氏50度を超える過酷な環境になることでも知られる。
このようにサウジアラビアの伝統や自然は独特であるが人々は気さくで友好的であり、違和感なくセミナーに力を注ぐことができた。また、セミナーが行なわ れた12月は、気温5度から20度程度と過ごしやすい気候であった。最後に、現地の関係者には、巡礼や関連行事のため大変多忙ななか、セミナー成功のため に尽力していただいたことを報告したい。

サウジアラビア、オリンピックソリダリテイーコースの日程

日  時    内   容
12月18日 午前 打ち合わせ(リヤド到着後)
開会式
大使館表敬訪問
午後 実技講習投技
基本動作:受身、崩し、組み方、進退動作、体さばき
足技:膝車、支釣込足、小内刈 連盟事務所で打ち合わせ
12月19日 午前 実技講習
投技
足技:大内刈、小外刈、内股
午後 実技講習
固技
基本動作:踞姿、引き込みの姿勢、足けり、足回し、
えび、逆えび、伏臥前進、ブリッジ
抑込技:横四方固、崩上四方固
12月20日 午前 実技講習
投技
足技:大外刈、足車、送足払、出足払
午後 実技講習
固技
抑込技:上四方固、縦四方固、袈裟固、崩袈裟固
連盟事務所で打ち合わせ
12月21日 午前 実技講習
投技
腰技:払腰、釣込腰、袖釣込腰
午後 講義
ドーピング、傷害の防止
12月22日 休日
12月23日 午前 実技講習
投技
手技:背負投、一本背負投、体落
午後 実技講習
固技
絞技:送襟絞、片十字絞、逆十字絞、裸絞、袖車絞、三角絞
連盟事務所で打ち合わせ
12月24日 午前 実技講習
投技
真捨身技:巴投、裏投
横捨身技:谷落とし
打込みの方法:移動、3人打込、連絡技、一人打込
連盟事務所で打ち合わせ
午後 講義
柔道の概要、審判規定
12月25日 午前 実技講習
投技
連絡変化
午後 実技講習
固技
関節技:腕緘 腕挫十字固
攻撃方法:引き込み、および引き込まれた体勢から
連盟事務所で打ち合わせ
12月26日 午前 実技講習
固技
攻撃方法:四つん這い、および腹這いの相手
午後 閉会式


写真

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記念写真
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指導の様子