September 26, 2016

<タムシ>「皮膚真菌症(感染症)について」 Q&A

<タムシ>「皮膚真菌症(感染症)について」 Q & A

「柔道選手のトリコフィトン・トンズランス感染症」知っておこう!~その治療と予防法~

近年、全国の柔道選手やレスリング選手を中心にTrichophyton tonsurans(トリコフィトン・トンズランス)という皮膚真菌症、いわゆる<タムシ>の感染例が増加しています。この菌は外国から持ち込まれた新しい感染症でしたが、最近になり、その特徴や治療法、予防法についてほぼあきらかになってきました。正しく理解して治療すれば、こわい病気ではありません。ただし、放置すると、競技者はもちろん、友人や家族にも感染拡大の可能性があります。みんなの力で撲滅を目指しましょう!


Q.どんな病気なのですか?


【図1】トンズランスの広がり

白癬菌はヒトの角質層(アカ)・毛・ツメなどに含まれるケラチンというタンパクを食べて生存します。過去にも柔道を始めとする格闘競技選手間では水虫、タムシなどの皮膚真菌症の流行がありました。このT.tonsurans菌は南北アメリカやヨーロッパでは頭部白癬の主な原因菌で、日本ではこの菌が分離されることは稀でしたが、2001年頃から全国の柔道部員に集団感染の症例が多く見られるようになりました(図1)。この菌の症状は以下の2種類に大別されます。(最初はあまり目立たず、見逃されていることが多い。)

【写真1】体部白癬=手の甲と、手首のあたりが赤く環になっている 【写真2】体部白癬=ピンク色になった環状の部分が見える
   
<【写真3】頭部白癬=頭の地肌が2ヶ所赤く腫れている 【写真4】頭部白癬=頭の地肌が盛り上がり化膿している。

(1)体部白癬(写真1・2)
発疹は柔道着で擦れる顔、首、上半身に多く認められ、小豆大~爪甲(いわゆる爪)大の鱗屑(角層がフケのようにはがれ掛かった状態)を伴う紅斑(ピンク色)となります。治ってくると環状となり、自然に症状が無くなるケースもあります。主に塗り薬での治療となります。

(2)頭部白癬(写真3・4)
フケやかさぶたができる程度の軽い症状から、頭皮から膿みが出て脱毛を生じる症状(ケルスス禿蒼)まであります。特に低年齢層の患者が重症になりやすく、注意が必要です。症状が無くても菌が毛穴の中に入ってしまうと、友人や家族間での感染源になります。飲み薬での治療となります。

Q.治療はどのようにすれば良いですか?

 T.tonsurans菌は、一度、皮膚や毛に取り付くと、簡単には治らず、そのまま体内に菌が残ってしまうことがあります。専門医(皮膚科)を受診し、根気よく治療を続けて下さい。(治療は、症状や患者の体重などで個人差があります。ここでは、薬剤名や商品名など、具体的な記述は控えますので、医師の指示に従って下さい。)

1.体部白癬の場合早期に完治させておくことが大切です。放置すると菌が頭髪に侵入します。診察時には医師に「柔道をやっている。」と申告して下さい。専門医でも単なる湿疹と誤診してしまい、ステロイド剤を処方されると重症化するケースもあります。
【塗り薬の使用】
専門医(皮膚科)で、塗り薬を処方された場合です。

  1. 1日2回程度、広めに薄くのばして塗って下さい。
  2. 1ヶ月間、塗り続けて下さい。(1週間程度で症状は消失しますが、1ヶ月間続けて下さい。中途で止めると再発することが多いです。)
  3. 患部は石鹸でよく洗い、清潔に保って下さい。ツメは短く切り、患部を掻かないようにして下さい。
  4. 塗り薬は1~3%の割合でかぶれの副作用があります。悪化した場合はすぐに専門医の診察を受けて下さい。

2.頭部白癬の場合
【飲み薬の使用】
一般的には、専門医(皮膚科)から処方された飲み薬での治療となります。具体的な薬量、・処方などは医師の指示に従って下さい。

  1. イトリゾール、塩酸テルビナフィンなどの成分が含まれた薬を服用します。
  2. 内服中に異常を感じた場合は、すぐに中断して医師の診察を受けて下さい。


Q.柔道部内で集団感染した場合はどのようにすれば良いですか?

柔道部員の中に数名の感染症がみつかったら、部内で集団感染している可能性が高いです。監督やコーチに相談し、クラブ全体で治療と予防に努めなければなりません。


【写真4】検査用のブラシ

【写真5】培養された白癬菌

【ブラシ培養検査】
頭がT.tonsurans菌に感染している部員を確認する方法です。部員全員が丸形シャンプーブラシ(写真4)で頭皮を強くブラッシングし、培養して菌の有無を調べます。(写真5)感染者が部内に存在すると、タムシの発症が繰り返されます。この検査はタムシ症状が無い感染者の確認にも有効です。

  1. 菌量の多い感染者の場合(ブラシ培養5コロニー以上)には、飲み薬での治療が必要になります。
  2. 菌量の少ない感染者の場合(ブラシ培養4コロニー以下)には、殺菌効果のある薬用シャンプー(薬局で購入できます。)の使用で様子を見て下さい。

*ブラシ検査が出来るか、どうかは、近隣の専門医(皮膚科)にお問い合わせ下さい。


Q.予防はどのようにすれば良いですか?

T.tonsurans菌の感染経路は、そのほとんどが、体が触れることによるとされていますが、その他には、衣類やタオル、寝具類を共有することからの感染も考えられます。集団感染を阻止するには、自分の身体や道場、部屋などをいつも清潔に保ちましょう。

  1. 練習直後にシャワーや入浴をし、できるだけ早く頭や身体を石鹸で洗いましょう。他の白癬菌に比べても、T.tonsurans菌の体内への侵入速度は速く、傷口からだと、通常の約2倍の速さで侵入します。
  2. シャワー施設のない場合は、水道の蛇口を利用して頭を洗浄し、濡れたタオルで身体を清潔にして下さい。
  3. 柔道着はよく洗濯しましょう。柔道着には菌が付着してしまいます。
  4. 練習前後には道場をよく掃除しましょう。菌は抜け毛やアカのなかで半年間も生存します。電気掃除機の使用を勧めます。自分の部屋も清潔にしましょう。
  5. 部員同士で帽子やシャツ、タオルなどの貸し借り(共用)は、やめましょう。
  6. 部員内、家族内に症状のある人がいたら、早めに治療するように勧めましょう。
  7. 練習前後に友人同士でボディチェックをし、皮疹のある者は休ませましょう。

指導者の方々へ・・・

T.tonsurans感染症が国内の柔道競技選手に流行し始めてから約5年、当初はマスコミも取り上げて大騒ぎとなりましたが、治療と予防をしっかりとやれば、怖い病気ではないことが理解されてきました。

ところが、治療の際に問題が起こっています。本感染症の治療にあたった医師が患者にしばらく通院するよう言っても、「監督に聞いてから・・・」と答え、結局来ないケースが非常に多いそうです。指導者に問い合わせると、「試合が近いから暇がない・・・。」「うちのチームだけ治療してもしょうがない・・・。」などと通院や治療に消極的な答えが返ってくることが多いそうです。

全国の指導者の方々、どうか、撲滅に向けた「前向きの姿勢」を切にお願いします。指導者の方々が本感染症について、共通の見解を持たない限り、本感染症の撲滅への道はありません。柔道の試合や練習が本症の感染拡大を助長させていることも明らかであり、柔道界は自分たちでT.tonsurans感染症に立ち向かう責任があると思います。

文/廣瀬信良<全柔連医科学委員会特別委員・順天堂大学准教授>