ネパール版柔道ルネッサンス!! 柔道との出会いが人生を変える~ストリート・チルドレンの更正の鍵は柔道にあり~

ネパール版柔道ルネッサンス!!
柔道との出会いが人生を変える~ストリート・チルドレンの更正の鍵は柔道にあり~

JICAシニアボランティアとしてカトマンズ武道館(ネパール)にて、青少年活動指導及び施設運営管理指導を行っている白井有紀さんから、まさにネパール版柔道ルネッサンス!!といえるお便りを頂きましたので紹介します。

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スレス・カドカ君

2004年10月インド、ラクノウの学園が催す「エキスポ2004」に、カトマンズ武道館からも遠征隊バスを仕立てて22人の子供達が出場しました。大健闘の結果、11人がメダル獲得、その中の一人、銅メダルをとったスレス・カドカ(16歳)はCWCN(チルドレン・バタバラン・センター・ネパール:ストリート・チルドレン養護施設)からの出場でした。スレスはどこでも模範生。武道館から遠く離れた施設から通っています。早朝稽古の後に学校、施設での仕事(造園・紙工芸・縫い仕事等を子供達主導で運営、生計の足しにしている)、その上夕方の稽古。疲れて「今日は行きたくない」と泣くこともあるそうです。それでも「やるからには勝ちなさい」との寮母さんの厳しい励ましにきちんと稽古に通う毎日、まさに文武両立を果たしています。CWCNからの柔道練習生は現在男子12名、女子8名。柔道を始めてからこの1年半カトマンズ武道館使用者の中で一番礼儀正しくきちんと通っているのがCWCNからの練習生です。

 

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CWCNの練習生たち

思えば初めてカトマンズ武道館に来た時の子供達は、タバコが臭い、何年も浮浪生活をしていたため発育が悪く皮膚もかさかさで、受身一つしても骨が折れてしまうのではないかと心配させられました。その反面、修羅場を潜り抜けてきて、今、自分の意志で更生しようとしている彼らのこと、精神的には他の同年代の比では有りません。専属コーチのダルマ・スレスタ初段の努力の甲斐あってめきめき上達しています。中には施設にいるようになり2年経った子もいて、その子達も全ての面で身近な目標、模範となりまとめ役に一役かっているようです。CWCNのカトマンズ武道館使用前に、5回にわたり日本語や武道についての話しをする機会をもちました。正直言ってその時点まで築き上げたカトマンズ武道館の礼儀指導に彼らがどんな影響を与えるか怖かったので事前に調査する意味と、いきなり初めて、それでなくとも社会の反応に敏感になっている彼らに恥をかかせたくないという思いからでした。しかし、心配の必要は全くありませんでした。最初は臆病にもなっていたのが、事前指導の通り礼儀を重んじ、施設内ではよくあるという喧嘩も武道館内では絶対にせず、皆小さい子の面倒をよく見、慕われ、大会の時には皆のホープとして熱い声援をあびています。講義で興味をそそっておいて最終日に「タバコを吸う人はいませんよね。柔道は激しいスポーツなのでタバコを吸ってやると肺が破裂します。」などともっともらしいことを言ったのが効を奏してか、今では喫煙者は殆どいません。挨拶、礼儀もコーチ顔負け、皆立派なものです。2004年4月にはCWCNの女子施設ができ、「CWCNのお兄ちゃんたちのようになりたい! だから柔道をやります!」との声に1月からは柔道を始めました。8名の寮生全員が稽古をはじめて2ヶ月半、この4月には初めての昇級試験に挑みます。皆の憧れ「色のついたベルト」までもう一歩です。

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カトマンズ武道館での練習風景

ネパールのストリート・チルドレンの殆どが両親健在と言われています。ストリート・チルドレンになってしまった経過は様々ですが、母親が死亡する等で父親が後妻をもらい、いじめられるようになり逃げてくるケース、田舎で貧乏の子沢山、長男以外は無視されたような状況になり子供ながらも都会に希望をもってカトマンズに出てきてしまうケース、過酷な農作業から逃げるために上京、シンナー、賭博、薬漬けになってしまい、年長浮浪者に上前をはねられては稼ぐの繰り返しで抜け出せなくなってしまったケース等、そこには身寄りが無い訳ではないカトマンズ独特の問題があります。

ネパール柔道は、カトマンズ以外でも、年少者が殆どいないのが現状です。私立学校の課外活動も生徒争奪ビジネス激しい中、他校へ移られては困るので甘やかし過ぎで、一律、礼儀が全くなっていません。皆お金持ちなので柔道衣は真っ白の新品なのですが。その中でカトマンズ武道館の10歳から15歳の少年柔道家が90人というのはネパール柔道界に大きく貢献しています。柔道衣はだぶだぶ、ぼろぼろでも、大会でのメダル取得が一番多いのはいつもカトマンズ武道館です。4月には念願のJICA柔道シニアボランティア(金子晃SV)を得、益々発展すること確実です。

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カトマンズ武道館の柔道家達

ネパールの政情不安、国家非常事態宣言はまだ続きそうですが、子供達はすくすく育っており、この中から将来柔道家として教育や福祉に携わる者はかならず出てくるでしょう。その時に自分の体験を活かし、まっすぐな活動(正直者がまったく馬鹿を見る現状では、残念ながらずるいことを黙認している社会が基本となってしまっています)ができるよう、海外援助やネパールの大人達は準備をしてゆかなければならない、今はまさに瀬戸際です。今後のネパールに柔道の力が必ずや役立つことを信じて活動に励みます。

PROFILE 白井 有紀 (しらい ゆき)shirai
JICA(国際協力機構)シニア海外ボランティア
青少年活動指導及び施設運営管理指導
1982年 女子美術短期大学 彫塑教室卒業
1987年 多摩美術大学 日本画科卒業
1991年~ ネパール滞在
1993年~ カトマンズおよび東京で個展(女流画家)
著書『ネパールで出会った神々』(丸善ブックス)