存し、必要な時に鉄を放出します。鉄不足と鉄過剰を抑える役割を持ちます。フェリチンとして蓄えられているものが貯蔵鉄と呼ばれます。健常成人男性では鉄の1日当り損失量は1-2㎎で、汗、表皮、毛髪、便中への上皮の脱落に伴う非常に少量の鉄のみ排出されるだけです。通常の状態ではそれに見合う分しか腸から鉄の吸収も行われません。排出と吸収のバランスをとるためには、1-2㎎の吸収が必要ですが、食品からの鉄吸収率10%と考えると、経口での必要摂取量は1日10㎎となります。赤血球の造血を中心とした鉄の利用を賄っているのは、新規に体内へ吸収された鉄が主体ではなく、体内に既に存在している鉄を再利用しているものが大部分を占めています。このことから、鉄代謝は半閉鎖的回路を構築していると言え、非常に大きな特徴となっています(図2)。食事に含まれる鉄は上部小腸から吸収されます。食事中の鉄は、ヘム鉄もしくは非ヘム鉄として含まれていますが、どちらも腸管上皮細胞を通り血液中に入ります。体内に鉄が不足している時は、吸収されやすくなります。充足している時は、吸収された鉄は一旦粘膜細胞に貯えられますが、その後、体外に排出されます。月経による損失がある女性では、さらに1日当たり0・5から0・8㎎の鉄が必要になります。鉄の吸収と利用の制御機構 体内の鉄代謝は、複数の臓器が関与して全体の量や分布が、ある一定の範囲内に保たれていますが、この調節を行う機能を肝臓で生成されるヘプシジンが行います。ヘプシジンは、腸上皮細胞やマクロファージなどで鉄を細胞外に排出する細胞の表面に存在するフェロポーチンという物質と結合し、腸管における鉄吸収や、マクロファージからの鉄の遊離を抑制します。血液中の鉄が不足している時や、酸素欠乏時ではヘプシジンは減少し、生体は鉄を吸収しようとしますが、血液中の鉄が充足している時にはヘプシジンが増加し血清鉄の上昇を抑制します。むやみに行う鉄剤注射や多量の鉄摂取はヘプシジンを増加させるため推奨されません。食事から摂取する鉄はその一部が体内に吸収されるのに対して、鉄剤注射では鉄がすべて血液中に入るためヘプシジン濃度は慢性的に高くなり、鉄を吸収しにくくなります。このヘプシジンは、炎症があるとサイトカイン(IL-6)の働きにより増加し、運動強度や運動時間が上がっても増加します。運動後のヘプシジン濃度は運動後にも持続することや、練習量が多いほど、安静時におけるヘプシジン濃度が高くなることも報告されています。貧血の診断貧血の診断は血液中のヘモグロビン値で判断し、WHOの基準では男性で13・0g/dl以下、女性で12・0g/dl以下のことを貧血と診断します。日本は世界的にみても貧血の頻度が高いといわれています。男性では60歳以上、女性では50歳未満に貧血の割合が多く見られます。ヘモグロビン濃度の基準値は研究機関・検査施設によって若干異なりますが、概ね成人男子で13・8-17・5g/dl、成人女子で12・0-15・5g/dlで、女性の基準値は低くなっています。慢性の貧血の場合、ヘモグロビン濃度が8~9g/dlくらいまでは無症状の場合があります。7g/dl以下になると頭痛、耳鳴り、めまい、心雑音などを呈し、6g/dl以下が持続すると心不全症状を呈します。貧血の原因1)鉄欠乏性貧血ヘモグロビンです。赤血球内のヘモグロビンは赤い色素をもつヘムという成分をもっています。血液が赤く見えるのはそのためです。ヘムを構成する重要な分子が鉄です。体内の赤血球の総数はおよそ20兆個であり、これは全身の細胞数の1/3から1/2を占めます。骨髄では毎日2000億個の赤血球が作られていますが、産生された赤血球は、120日程度のサイクルで常に一定数の赤血球が壊れ、新しい赤血球に置き換わっています。寿命を迎えた赤血球は主に脾臓で壊されますが、その中にある鉄は回収され新たな赤血球を作る材料となります。体内の鉄動態鉄は、ヘモグロビン合成や、DNA合成や呼吸に関与する酵素に必要不可欠な金属元素です。しかし鉄は体内に過剰に存在すると活性酸素種を発生させ、細胞・組織・臓器障害を起こします。そのため体内における鉄の量は常にある一定の範囲内になるよう調節されています。体内の鉄の総量は3000-4000㎎あり、約70%は赤血球に含まれるヘモグロビンに使われています。生体では、酸素との結合や運搬に関わっているヘムを含むタンパク質は3種類あります。ヘモグロビンは、赤血球中に含まれていて、血液に乗って体中の細胞に酸素を供給します。ミオグロビンは、筋肉に含まれていて、運動時に酸素を筋細胞に供給します。フェリチンは、細胞内において鉄を保骨髄(造血)赤血球網内系(マクロファージ)肝臓フェリチンミオグロビンやDNAなど十二指腸貯蔵排泄(汗、粘膜)吸収1-2mg血清鉄再利用1-2mg図2 体内の鉄動態33 まいんど vol.45
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