まいんど vol.45 全日本柔道連盟
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柔道ゼミ医療編ゼミナールこのコーナーでは選手、指導者を対象に、それぞれのスキルアップに役立つ話題(コンディショニング、トレーニング、栄養、心理、メディカル、コーチングなど)を紹介します。貧血とは、WHO世界保健機関の定義では血液中のヘモグロビン値が男性で13・0g/dl以下、女性で12・0g/dl以下のことをいいます。厚生労働省が行っている令和5年国民健康・栄養調査によると、成人の13・9%(男性のが貧血の原因になることがあります。貧血は、ゆっくりと進行する場合が多く、その影響はしばしば見過ごされがちです。運動で起こる貧血の多くは、鉄が不足することによって起こる鉄欠乏性貧血で、その場合は食事やサプリメントなどで鉄を摂取することで改善や予防が可能です。貧血の病態を正しく理解し、より良いコンディションつくりを行いましょう。す。貧血が徐々に進行した場合には、体が低酸素状態に慣らされるために、相当に強い貧血になるまで特に自覚症状がないこともあり、気づかない場合もあります。貧血症状としての動悸、息切れ、皮膚蒼白以外にも、爪の変形、舌の違和感、咽頭の違和感や嚥下困難や異食症(氷)、易疲労感などがあります。息切れ・動柔道J U D O(鉄欠乏性貧血)運動で起こる貧血貧血の概要赤血球は血流に乗って全身を巡り、赤血球内部に充満しているヘモグロビン(血色素)を使って酸素を全身に運ぶ働きをしています。赤血球数が減少した場合や、赤血球がうまく作れなくなった時にヘモグロビンが足りなくなり、血液の酸素運搬能力が低下し、さまざまな症状が現れます。「貧血」とはヘモグロビンあるいはヘマトクリット(血液中の血球の含有率)が減少した状態を示す言葉であって、単に「貧血」という名前の病気があるのではありません。急に立ち上がった時や、立ち続けた時に起こるめまいや立ちくらみを脳貧血という人がいますが、これは起立性低血圧といい、医学的な「貧血」とは異なります。貧血の際には、酸素を運ぶ能力が低下しているために心拍数や心拍出量(一回の心臓の収縮で心臓から出る血流量)の)(     増加や、呼吸量の増加で補おうとします(代償)。さらに、運動時には、これらの症状が強くなります(動悸や息切れ)。また、代償が追いつかないと、体の各組織が低酸素状態になり、倦怠感などのさまざまな症状が現れます。また、ヘモグロビンが減少するために皮膚や粘膜の赤みがなくなり白っぽく(蒼白に)なりま悸・倦怠感は心臓や肺など他の疾患でも認められる症状であり、貧血に特異的ではありません。酸素を取り込んでエネルギーを作り出すという持久性能力を表す最大酸素摂取量は、ヘモグロビン量と関係があります。(図1)最大酸素摂取量は、全身の酸素供給能力の指標であり、ヘモグロビン量が直接的に影響します。1gのヘモグロビンは約1・34 mlの酸素を結合でき、血液中のヘモグロビン量が多いほど運搬できる酸素量が増えるので最大酸素摂取量が向上します。ヘモグロビン量が下がると、持久性能力は下がりますが、ヘモグロビン量を正常化することで持久性能力は改善できることもわかっています。 赤血球の特徴赤血球は成熟する段階で、酸素の運搬には不要な細胞核や酸素を消費するミトコンドリアを捨て去り、重量の約90%が図1 ヘモグロビン量と最大酸素摂取量の関係M J Joyner(2003)Vo2max, blood doping, and erythropoietin、Br J Sports Med. 37.190-191 doi: 10.1136/bjsm.37.3.190. 10・7%、女性の16・3%)が貧血にあてはまります。貧血は、多く人が抱える問題ですが、運動を行うこと自体最⼤酸素摂取量l/分全⾝ヘモグロビン量32PROFILE東海大学スポーツ医科学研究所所長。日本整形外科学会専門医・スポーツ医、日本スポーツ協会公認スポーツ医。現在、全柔連医科学委員会委員で、96年から08年までナショナルチームドクターを務めた。解説:宮崎誠司東海大学スポーツ医科学研究所 所長まいんど vol.45指導者のスキルアップのための

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