まいんど vol.44 全日本柔道連盟
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柔道ゼミ医療編ゼミナール胸部には、生命維持に最も重要な臓器である心臓、肺、さらに大血管など重要臓器が存在しています。そのため胸部の外傷時には、短時間で生命を脅かし、他部位よりも緊急度の高い問題が起こります。多くの胸部の臓器損傷が、外傷後数分または数時間の間に死を引き起こすため、早期の対応が必要になってきます。重症例が柔道で起こることはまれではありますが、胸部への軽度の衝撃で起こる心臓しんとうもあり、よく知っておく必要があります。柔道J U D O胸部外傷と心臓しんとう胸郭の解剖胸郭は、 胸骨・肋骨・胸椎からなる骨性i           います。胸郭に囲まれた空間のことを胸腔胸郭と、外肋間筋・内肋間筋・最内肋間筋・横隔膜などの呼吸筋により構成されてと言います。肺は胸膜に覆われており、胸膜は臓側胸膜と壁側胸膜からなります。縦隔とは特定の臓器の名称ではなく、胸膜によって左右の肺の間に隔てられた部分を指し、心臓、食道、気管、気管支、大動脈や大静脈、胸腺、神経などが含まれます。胸部の重傷外傷胸部損傷は、鈍的外傷または穿通性外傷により起こります。重症胸部外傷として、気道閉塞、緊張性気胸、開放性気胸、大量血胸、フレイルチェスト(動揺胸郭)、心タンポナーデ、心臓しんとうなどがあります。胸部損傷では血胸と気胸が多く、しばしば同時に認められます(血気胸)。肋骨骨折や鎖骨骨折を伴うことがあります。2か所以上の肋骨骨折では血気胸を伴いやすいと言われています。重傷胸部外傷では呼吸、循環、またはその両方の障害が発生し、中には致死的になることがあります。呼吸が抑制される場合は、肺または気道の損傷(肺挫傷、気管損傷など)が起こる場合と、肺のふくらみや換気(空気の出入り)の障害が起こる場合(血胸、気胸、動揺胸郭など)があります。また、出血、静脈還流量の減少、直接的な心筋損傷による循環Environmentalcontrol(Exposur/ eility)、全身観察/環境管理)であ障害を起こします。血胸などで生じる出血は、1000㏄以上の大出血となりショックを引き起こすことがあります。症状は疼痛および呼吸困難であり、胸壁が損傷している(肋骨骨折等)場合は、呼吸により疼痛が悪化します。さらに、呼吸が早く浅くなり、意識障害や皮膚の蒼白、冷感、冷や汗、血圧低下といったショックが認められるようになります。胸壁損傷(肋骨骨折など)がある場合は、圧痛が著明になります。気胸または血胸により呼吸音が減弱する可能性があり、患部の打診において血胸では濁音が、気胸では過共鳴音が認められます。胸郭の動きは重要で、上下動や左右差で確認します。フレイルチェスト(動揺胸郭)では、胸壁の一部が他の部分とは逆方向(呼気時には外向き、吸気時には内向き)に動き(奇異呼吸)、しばしば動揺部分が触知できます。受傷時の評価は同時進行で行われ、損傷を受けた場合に最も短時間に生命を脅かす器官系から開始します。つまり気道(Airway呼吸(Breathng)、循環(Circulation)、神経学的障害(DisabるA、B、C、D、Eの順に行います。肋骨骨折胸郭に直接衝撃がかかる場合(直達外力)と、捻るなど急激な筋収縮によって(介達外力)生じます。主な症状は痛みですが、患部の腫れや熱感が起こることがあります。呼吸困難は、特に深呼吸が痛みによって生じることがありますが、肺挫傷や気胸・血胸などが起こっている場合があります。基本的には保存療法ですが、外傷性の緊張性気胸・血胸を伴っている場合に緊急で処置が必要なことがあります。肋骨骨折の治癒期間は約3週間とされています。肋骨が折)、このコーナーでは選手、指導者を対象に、それぞれのスキルアップに役立つ話題(コンディショニング、トレーニング、栄養、心理、メディカル、コーチングなど)を紹介します。図1胸郭の構造図2 気胸と血胸(向かって右側、左は正常)34PROFILE東海大学スポーツ医科学研究所所長。日本整形外科学会専門医・スポーツ医、日本スポーツ協会公認スポーツ医。現在、全柔連医科学委員会委員で、96年から08年までナショナルチームドクターを務めた。解説:宮崎誠司東海大学スポーツ医科学研究所 所長まいんど vol.44指導者のスキルアップのための

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