先進国の高齢化による転倒対策として、各国柔道連盟は柔道を通じた転倒予防法の開発・普及を行っています。全日本柔道連盟も転び方プロジェクト(2022年~2025年)を立ち上げ、「シニア版受け身のススメ~転倒から身を守る理論と実践~」を発刊しました(全日本柔道連盟HPよりダウンロード可)。 2023年11月には、世界初となる柔道を通じた転倒予防法開発のための会議『International Consensus Conference on Safe Falling for the Elderly through Judo』 が 開 催 さ れ、2024年5月には各国の柔道を通じた転倒予防に関する研究者による声明“Global Consensus Statement How Can Judo Contribute to Reducing the Problem of Injurious Falls in Older Adults?”を発表しました。2024年12月には第2回目となる”International Conference on Safe Falling for the Elderly through Judo 2024”(柔道を通じた高齢者の安全な転び方に関する国際会議)が開催されました。 当会議は、2024年12月12日、13日の2日間にわたり東海大学に於いて開催され、世界18か国より研究者および一般の参加者合わせて約80名が参加しました。柔道場では各国の取り組みの指導実演と参加者の情報交換が行われ、講義室では転倒予防法に関する研究ならびに事例が各国代表より報告されました。 指導実演では、スウェーデン柔道連盟が2017年にダーラナ大学と共同で開発した「柔道4バランス(Judo 4 Balance)」、南オーストラリアのアデレード大学を中心に開発された「ダイナミック・バランス・フォー・ライフ(Dynamic Balance for Life)」 が 紹 介されました。 両プログラムとも体力トレ ー ニ ン グ、 バ ラ ン ス 運動、起き上がり運動と受け身を含む転倒の4つの段階(安定期、不安定期、転倒期、起き上がり期)にアプローチしています。また、イスラム教圏のアラブ諸国の日常的に着用される民族衣装に配慮した「アラブ人のための安全な転び方(Safe Falling Program for Arabs)」は興味深いものでした。この民族衣装は足の可動域、女性の場合は視野まで制限されており、足を開いての受け身ができません。そのため、あえて民族衣装を着用したままの受け身が紹介されました。日本からは、「受け身のススメ」と固有受容器の向上を意識した「形を用いた転倒予防法」を紹介しました。 現在、国際的な転倒予防に関する研究グループが組織され、各共通の転倒のリスクをスクリーニングするシートの開発を多言語で進めており、1か月に1度のペースでオンライン会議が開かれています。今後、高齢化社会において「転倒」は社会的な問題としてますます取り上げられることが予想されます。その際に、柔道を通じた転倒予防法を提示することは重要なことです。これからも世界各国と協力しながら、よりエビデンスの整った転倒予防法を開発していきたいと思います。▲指導実演も行われ、有意義な会議となった▲18か国から約80名が参加曽我部晋哉(甲南大学・教授)マーヤ・ソリドーワル(津田塾大学・准教授)▲昨年12月に行われた国際会議のパンフレットInternational Conference Safe Falling for Older People through Judo 2024 報告
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