まいんど vol.44 全日本柔道連盟
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第33回▲写真1.日本人講師の説明を熱心に聞く南洋工科大学の学生達教育普及・MIND委員会 教育普及部会 文/曽我部晋哉(甲南大学 教授) ▲写真2. さまざまな文化が混在する(サルタン・モスク)教育普及・MIND委員会では、日本の柔道教育普及活動をより充実させるために、各国連盟の協力のもと、世界の柔道最新事情や取り組みについての調査・報告をしております。第32回の記事では、シンガポールの教育政策や柔道を含むスポーツの位置づけについて考察しました。同国の国策が教育至上主義とはいえ、シンガポール柔道連盟は、柔道の強化並びに普及発展にも力を注いでいます。柔道を取り巻く環境にどのような問題があり、そしてどのような施策を展開していくのか、Yeo Chin Seng会長、Stephen Chee副会長に話を聞いてきました。 シンガポールで最も人気のあるスポーツは、サッカー、次にバドミントン、水泳、卓球、バスケットボールと続く。柔道はというと、聞いたことはあるというもののメジャースポーツとは言えない。おおよそ500名が柔道を行っており、7つの国立大学、5つのポリテク、6つのインターナショナルスクール、14の中学校、そして16の道場で活動している。日本のように幼児期から柔道を始め、高校や大学まで続けるという人は少なく、むしろ柔道未経験者が大学生になってから始めるという人が多い。実際に大学の柔道クラブに訪問した際にも、ほとんどが白帯か色帯で、黒帯は数名といったところだ(写真1)。そもそもシンガポールでは、ジョギング、ウォーキング、水泳、ダンスなどの人気が高く、フィットネス利用者の割合も国民の19.5%と高い。さらにはスポーツに費やす費用もアメリカに次いで319.7ドルと高く、実は健康スポーツという観点からはス年のパリオリンピックまでに獲得したメダルは金メダル1、銀メダル2,銅メダル3の計6個である。シンガポールに初の金メダルをもたらしたのは2016年のリオデジャネイロオリンピックの男子100mバタフライのジョセフ・スクーリング選手だ。このように、シンガポールでは柔道のみならず、他の種目においても国際的に活躍する選手は少ない。 Yeo会長は「我々が最も重要視している大会にSEA Gamesがある。今年の12月にタイで開催される。この大会でよい結果を残すことが次の強化費獲得にもかかっている」と話す。このSEA Games(Southeast Asian Games)とは、東南アジア競技大会のことで、2年ごとに開催される。2023年の柔道競技にはタイ、ミャンマー、マレーシア、シンガポール、ラオス、ベトナム、フィリピン、インドネシア、カンボジアが参加した。結果はベトナムが金8個、銀1個、銅1個、計10個の圧倒的な強さを誇る。同大会で、シンガポールは4つの銅メダルを獲得した。2025年大会で結果を残すために、柔道連盟は開催までの間、日本よりコーチを招聘し強化を図っている。 前回号でも触れたが、在住する人の中でシンガポール国籍を持つ人は、60.2%のみであり、残りの39.8%は外国籍なのである。つまり、シンガポール国内でトップ選手として活躍しても、国際大会ともなると別の国の代表として出場する選手も多く、純粋に国内のナショナル強化選手として育成することが難しい。さらにシンガポール在住の人々の人種は、中華系74%、マレー系14%、インド系7.9%を占め、さまざまな文化が混在する国であり、しきたりも異なる(写真2)。 グローバル化が進むなか、我が国も大きな転換期を迎えている。世界一の少子高齢化社会を迎える日本は、在留外国人を増やしたい日本政府の方針が打ち出されており、国の様相はこれまでと大きく変化するであろう。そういった意味でシンガポールの抱える柔道普及と強化の難しさは、今後の日本にも当てはまるかもしれない。もうそろそろ将来を見据えたグローバル対策を考えていかなくてはならない時期が訪れているのかもしれない。ポーツ大国とも言えるのである。 さて、シンガポールにおける競技における柔道に着目してみる。シンガポールがオリンピックに参加したのは、1948年のロンドン大会で、イギリス領シンガポールとして参戦した。2024グローバル社会の象徴シンガポール。日本柔道の目指す未来は?!

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