さらなる夢に行って転倒予防教室ができたらいいなと考えております」とのこと。筆者の母国フランスの話が出て盛り上がり、フランスの例を紹介させていただいた。フランス柔道連盟は乗馬連盟と繋がっていて、乗馬の学校の半数は落馬によるケガを防止するために受講科目に柔道の「受け身」を取り入れている。また、農家も高所での作業があるため、転倒予防が大切ということで「受け身」を取り入れた取り組みを行っている。老人ホーム(要介護高齢者向け居住施設)で「受け身」を取り入れていることは何度か紹介させていただいた。施設では、まず、柔道衣の上着を身に着け、モチベーションを上げ、身体能力に合わせて柔道の動きを取り入れた運動を行っている。時には棒を使って足払いの練習をしたり、相手と組んで「技」の練習を行ったりしている。などなど、いくつかの例を紹介させていただいた。先生はそうしたフランスの要介護高齢者向け居住施設で行われている取り組みを話した時に、柔道の良さというのは「2人でやること」だと言われた。「転倒予防は基本的に1人でやりますが、2人で組み合いながら足払いの練習、バランスの訓練。柔道の2人でやるということが他の転倒予防教室と差別化ができると思っています」そしてまた、フランスではそうした取り組みにより、医者が処方箋に「柔道のレッスン」を薬の代わりに入れ、その結果、国民の薬の量が減りフランスの厚生省は喜んでいるという例もお話しした。そのことについて、先生はとても良い事だと賞賛してくださった。筆者は先生が「やわらちゃん体操」をフランスで普及する際は可能な限りお手伝いしたいと心から思っている。最後の質問。競技としての柔道の他に柔道はどういう形、あるいは場面で社会に貢献できると考えているか。あるいは貢献するべきと考えているか?(柔道人口増加につながることはどのような貢献だと考えているか)「今後は対象を高齢者だけではなく、子どもたちにも広げていきたいと考えています。現在、日本の子どもは、運動をあまりせずに、子どもロコモ(運動器症候群)の状態になっている子どもがおり、骨折が以前と比較し増加していると報告されています。そのような骨折を減らすためにも柔道の受け身は有効と考えています。具体的には小学生に受け身を教える時間・場所があったらいいなと感じています。理想は日本人に生まれたら全員受け身ができるというような状況になったらうれしいなと感じています。これは柔道仲間たちと一緒に進めていけたらいいなと思っています」筆者が感じているのは成人が講道館に来て「受け身」をやるのは良いのであるが、「受け身」は筋肉(体)が覚えないといけない。でもそういうふうに筋肉・体が覚えるためには、若いうちに何回も何百回もやらないと身につかない。「なので、子どもの時に『受け身』の練習をしたほうが効果があると思う。その有効性について我々は経験的に知っているが、知らない人にはエビデンスや科学的根拠がないと理解してもらえない」私の意見に同感され、話はどんどん弾んだ。柔道家同士の「打てば響く会話」がとてもうれしかった。「そうです、そうです」と相槌が止まらなかった。では、ズバリ先生にとって柔道の魅力はなんですか?「やはり上手くスパッと投げることができた瞬間の気持ち良さですね。あとは柔道を通じて世界が広がること。友人は日本にとどまらず、世界にできました。フラマンさんもその一人です。それと練習後に、柔道仲間と一緒に飲むビールも最高に美味しい(笑)。もしかしたらそのために柔道をしているのかもしれません」まったく同感! えて人々を結びつけるし、心と体のバランスも良くする。最高である。柔道家同士の共感は止まらない。話が終わって筆者が感じたこと:日本はオリンピックでたくさんのメダルを獲得してきた国で競技としての柔道はとても強い。柔道のすばらしさ、おもしろさはよく知られているが柔道の良さは競技だけではない。数え切れないほどある。その一つは、紙谷先生のお話しにあった転倒・骨折予防に対する「受け身」の有効性。柔道家なら感覚的に知っている、その「感覚的」なことを先生は医科学的根拠で示す研究活動をされていることが本当にすばらしいと思った。先生の柔道愛に基づく貴重な研究活動に心から敬意を抱いた。本で初めて転倒予防教室を開催した病院であり、そこで整形外科医として参加したのが、転倒予防教室に関わったきっかけで、関わっていくうちに、柔道の「受け身」が転倒・外傷予防にとても有効と感じ、柔道ドクターの仲間たち(秋山桂一先生、木田将量先生、柵山尚紀先生、井汲彰先生)と一緒に『やわらちゃん体操』という運動プログラムを作ったとのこと。講道館でも教室を開催したそうだ。今は全柔連でも転倒予防に関する委員会を作り、活動をサポートしている。とても良い活動だと筆者も賛同した。なので、全国に普及させる、もっと拡大するなどの考えはありますか? 「このような活動は、日本国内に止めるのではなく、海外に広げていきたいと考えています。特に柔道が盛んなフランスは、ロクサーナ・マラシネアヌさん(スポーツ大臣・来日当時)が、日本に来て転倒予防教室に参加されました。次は我々がフランス柔道は国籍の違いを超と質問。井上康生氏との出会いは宮崎医科大学の医大生時代にさかのぼる。リオ・東京両オリンピックでは、監督とチームドクターとして一緒に働いた全柔連転倒外傷予防指導員委員会委員長として、転倒予防教室なども行っている27 まいんど vol.44
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