(日本)柔道を愛する仲間たち武 全日本チームドクターに柔道の社会貢献に取り組む第23回紙谷思うに、人生には分岐点がある。どうしても、どちらか一つを選ばなくてはならない場面に遭遇することがある。その時に忘れてはならないのは原点であろう。現実をしっかり見極め真の目標は何かと自問自答すれば、後にこれで良かったと思える道を選ぶことができるのではないだろうか。医師となり、名古屋大学整形外科に入局し、その関連病院で勤務していた。その後、東京大学の関連病院である東京厚生年金病院(現JCHO東京新宿メデイカルセンター)に異動となった時、東海高校の先輩で、当時全柔連医科学委員長であった戸松泰介先生と再会した。「私の目標はナショナルチームドクターになりたい、整形外科を選んだ時に柔道のトップレベルの選手の治療をしたい、これも夢でした。戸松先生にはやらせてくださいと私のほうからお願いしました」お話をうかがっていて感じたのは、先生にはいろいろなすばらしい出会いがあり、次の進路とその出会いは運命のようにつながっていること。でも、それは偶然や運の良さだけではなく、どんな場面でも人との出会いを大切に誠実にされてこられたからなのだろうと感じた。話は変わるが、冒頭で触れた「やわらちゃん体操」をご存じだろうか。柔道家であり整形外科医である先生が、その経験を活かし社会貢献できる一つの方法ではないかと、中高年の方々の転倒・骨折を予防することを目的として作成した運動プログラムのことで、勤務していた東京厚生年金病院が日「僕が大学1年生の時に井上康生先生は中学3年生でした。私もそこそこ強かったと思うんですけど、井上康生先生との練習は互角。びっくりしました。なんて強い中学生がいるんだと思いました」大学時代は「頑張って練習はしていましたけど、全国大会に出て勝つというのは難しかったです。旭化成にも定期的に練習に行けていたわけじゃなく、毎日練習できるわけでもなかったので、練習量というところでなかなか難しくて…そう簡単には試合では勝てなかったですよ」そしてやはり、勉強と柔道の両方というのは難しいという現実に直面し、医師になるほうを優先した。それが目標だったからである。スポーツ(特に柔道)でケガをしたり、故障したりした選手の治療に関わりたいと決めた進路は整形外科医。そして遂に目標であった医師となった。道の先生で柔道場をやっていたので、柔道は小学校1年生の時から自然に始めたとのこと。週3回ほど練習していたが、きついというより楽しかったそうだ。しかし、小学1年生の健康診断によって心房中隔欠損症であることがわかり、小学3年生の時に手術を受けられた。そして、そのご経験から医師に憧れ、自分も病気で困っている人を助けたいという思いが芽生え、医師になることを目標にした。なので、その目標を達成するために中学・高校は愛知県屈指の進学校で医学部合格者が多かった東海中学・高校に進学。そこは進学校であると同時に第5回全国中学校柔道大会で団体優勝、第7回全国高校柔道大会(インターハイ)で団体優勝するほどの柔道の強豪校でもあった。紙谷先生は文武経歴ご出身は愛知県名古屋市。お父さんが柔両道に励んだ。全国中学校大会中量級優勝、高校1年の時は全国高校選手権個人戦(無差別)3位、2年の時は国際高校柔道選手権大会に日本代表として出場し団体優勝、しかし高校3年のインターハイ個人戦は予選リーグで敗退……悔しかった。小学3年生の時に医師になると目標を決めていた。柔道はまた大学に行ってからやる! と腹をくくり勉学優先。そして、宮崎大学医学部へ進学。入学後は運が良かったと回顧されていたが、宮崎には強い高校や実業団(旭化成)、町道場があり、練習に参加することができた。そこで井上康生先生、大迫明伸先生(審判委員長)たちとの出会いがあった。井上先生とは、リオ・東京オリンピックで、監督とチームドクターとして一緒に働くことができ、とてもうれしかったそうだが、第一印象については次のように語られていた。柔道人26(文=ピエール・フラマン/広報委員)PROFILEかみたに・たけし愛知県名古屋市出身、1973年8月6日生まれ。東海中学、東海高校、宮崎医科大学医学部卒業。慶應義塾大学大学院理工学部研究科後期 博士課程修了。東海学園大学教育学部教授。全柔連医科学委員会委員。全柔連転倒予防指導員養成資格委員会委員長現役引退後に柔道精神を心に据えて社会で活躍されている多くの方をこれまでも紹介してきたが、今回紹介させていただくのは整形外科医、紙谷武先生である。北京、ロンドン、リオのオリンピック3大会を含めた数々の世界大会に全日本柔道チームのスポーツドクターとして参加し選手のケガや故障の治療を行ってこられた。現在は柔道の経験と整形外科医の知見を活かし、転倒・骨折予防「やわらちゃん体操」を推進し柔道の社会貢献にも努められている。まいんど vol.44THE夢を追い、夢を実現、そしてさらなる夢
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