まいんど vol.38 全日本柔道連盟
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メディカル編ゼミナール柔道JUDOこのコーナーでは選手、指導者を対象に、それぞれのスキルアップに役立つ話題(コンディショニング、トレーニング、栄養、心理、メディカル、コーチングなど)を紹介します。指導者のスキルアップのための東海大学スポーツ医科学研究所所長。日本整形外科学会専門医・スポーツ医、日本スポーツ協会公認スポーツ医。現在、全柔連医科学委員会副委員長で、96年から08年までナショナルチームドクターを務めた。PROFILE解説:宮崎誠司東海大学スポーツ医科学研究所 所長▲図1:脳・脊髄と脳脊髄液脳脊髄液脳脊髄液は脳および脊髄の外側、および内部にある脳室を満たしている無色透明の液体のことを言います。脳および脊髄は、硬膜、くも膜、軟膜という3重の髄膜で包まれています。くも膜と軟膜の間(くも膜下腔)は、脳脊髄液(髄液)で満たされており、脳や脊髄はこの中に浮かんでいます(図1)。頭蓋骨や脊椎の中にある脳や脊髄を脳脊髄液がクッションとして保護し、また代謝上でも重要な役割を担っています。毎分一定量脳室内で生産され、大脳表面から吸収されながら、循環しています。脳脊髄液減少症・脳脊髄液漏出症とは?頭部や背部などへの外力が加わったあとに、脳脊髄液が漏れ出し減少することによって、起立性頭痛(立位によって増強する頭痛)などの頭痛、頚部痛、めまい、倦怠、不眠、記憶障害など様々な症状を呈するものを言います。臨床の現場では、腰椎穿刺後や脊椎麻酔後に穿刺部から脳脊髄液が漏出し,著明な起立性頭痛を生じることがあることは古くから広く知られています。1938年に腰椎穿刺後の頭痛を訴える患者において,類似の症状を呈する疾患群が報告され,その後も、脳脊髄液の漏出による低髄液圧により特徴的な症状を呈することが報告されています。1960年には腰椎穿刺後の低髄液圧症候群と診断された人に対し、硬膜外自家血注入(ブラッドパッチ)という血液の塊を、髄液の漏出部に注入する治療が実施され、その後にもその治療効果については有効であるとの報告がなされています。しかしながら国内で、頭頚部の外傷と頚椎捻挫に続発する低髄液圧症候群の存在が指摘され論じられてきましたが、脳脊髄液減少症の中に存在する脳脊髄液の漏出と低髄液圧という若干異なるものが混同して理解・議論されていたために混乱を招いていました。脳脊髄液の総量を客観的に計測し減少量を計測する方法は現時点では確立されていません。脳脊髄液漏出症診療指針 (2019年出版)によると、脳脊髄液減少症の中核を成すのは「脳脊髄液の漏出」であると規定し脳脊髄液漏出症は「脳脊髄液腔から脳脊髄液(髄液)が持続的ないし断続的に漏出することにより減少し、頭痛、頚部痛、めまい、耳鳴、倦怠感などさまざまな症状を呈する疾患である」と定義されています。しかしながら、脳脊髄液の漏出のない低髄液圧もあり混乱を招いたため、2007 スポーツ庁は2023年5月10日に、脳脊髄液減少(漏出)症への適切な対応についての周知をしています。柔道においても受傷している事例もありますので、本稿で解説していきたいと思います。脳脊髄液減少症・脳脊髄液漏出症34まいんど vol.38

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