まいんど vol.38 全日本柔道連盟
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「日本の柔道登録者が減少!」と、危機的な状況として伝えられることが多いが、諸外国はどのなんだろう? と、みなさんも気になったことはあるのではないだろうか。確かにパンデミック時には、どの国も登録人口が激減し、各国連盟も頭を抱えていたに違いない。コロナの影響も過ぎ去った今、「どんどん柔道実践者も戻り、さぞ活気づいていることだろう」という訳にはいかないようだ。そこで、ドイツの例を挙げてみる。2001年には276,231人だった登録者数は、2022年では118,808人となり、実に158,223人、57.3%も減少しているのだ。日本の登録者数が2022年時点で124,060人なので、丸ごと一つの国以上の登録者数が減少したことになる。 さて、これまでドイツは子ども向けのたくさんの取り組みを実施してきており、多くの登録者数を獲得してきた。しかし、PISAショック(国際学力調査でドイツの学力ランキングが低下)の影響もあり、それまで午前中で学校が終わっていた多くの学校が全日制となり地域でのスポーツ活動がこれまでどおりにいかなくなった。さらに少子高齢化は我が国と同じで、これからの未来を想像しても、これまでと同じように子どもたちを取り込むことは難しい。そこで、ドイツが生涯柔道として新たな価値を創出し、特に若年層から高齢者まで、また柔道経験の有無を問わず普及させようとしているのが「TAISO」だ。 ドイツ柔道連盟はこの「TAISO」を、柔道を構成する3つの要素である「形」「乱取り」「試合」に加え「TAISO」を4つ目のコンセプトとして位置付けた。つまり、この「TAISO」=柔道そのものであるということになる。この考え方だけ見てもドイツの本気度がわかる。 では、この「TAISO」とは、何か。この名称のとおり日本の体操をモデルにしている。特に嘉納師範の提唱した体育法を全体のコンセプトに取入れ、「ラジオ体操」や日本の準備体操で用いられる「いち、に、さん、し・・・」の号令を体操の中に導入した。なかでも興味深いのは、1927年に嘉納師範が発表した「精力善用国民体育」をプログラムの中に導入していることだ。 この「精力善用国民体育」という日本国民の健康増進のために開発された体操が、いまや日本では名前すら知らない人が多い。それにも関わらず、遠く離れたドイツで再びよみがえり、国民が実践しているという点は非常におもしろい。今後、ドイツでこの「TAISO」を契機に、登録者数が回復し、そして「TAISO」とともに国民が健康になり、より活力ある社会となっていく姿を夢見たい。教育普及・MIND委員会 教育普及部会 文/曽我部晋哉(甲南大学 教授)ドイツの生涯柔道普及の切り札TAISO。その全容に迫る! 27回目 教育普及・MIND委員会では、日本の柔道教育普及活動をより充実させるために、各国連盟の協力のもと、世界の柔道最新事情や取り組みについての調査・報告をしています。欧州においても先進国を中心に柔道の登録者数の減少が課題となっています。これまで何回か取り上げてきたドイツですが、生涯スポーツとしての新たな価値を創出するために「TAISO」を推進し始めました。今回は、この「TAISO」のコンセプトとその方法についてご紹介します。▲図2.TAISOのロゴ◀精力善用国民体育Mrs.Jenny Frey▲図1.日本とドイツの登録者数の比較

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