まいんど vol.38 全日本柔道連盟
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連載特集 2味します。「意図的練習」理論にこのような強い根拠が加わることで、その説得力は増していきました。ここで念を押しておきたいのは、「勝つためのトレーニング段階」というのは、17~18歳以降におけるパフォーマンスの最大化を目指す段階を指しており、より若い時期からのスタートを推奨するものではないことに注意が必要です(その段階が1・3~3・6 年早く始まったという意味です)。また、この理論はエリクソンの意図を超えて、アメリカ社会で過度に宣伝された背景もあります。スポーツはもちろん、他の多くの分野でも素質よりも練習の積み重ねが成功に繋がるという、ある種のイデオロギー的な考えを生み出しました。この理論から生まれてしまった「素質がなくても練習がすべてを可能にする」という観点が、早期専門化を助長する要因として批判されています。この批判の背後には、早期専門化に対する懸念があり、この点を深く掘り下げて考える必要があります。タレント発掘・ 育成システムの副作用 タレント発掘・育成システムの全貌をこの場で説明することは難しいですが、必要最小限の情報を説明し、その歴史的な概要を図1で視覚的に捉えることができます。人口が少なく、限られたタレントプールの問題に直面した東ドイツやオーストラリアは、それを克服するために革新的なシステムを開発・導入しました。これにより、アスリートの卓越した育成とオリンピックでの顕著な成果に達成しましたが、その一方で副作用も見られました。 具体的には、これらのシステムがスポーツ人口の減少、すなわち「スポーツ離れ」を招く一因となりました。この背後には、早期に特定の競技に特化させる早期専門化があるとされています。早期専門化が問題とされるのは、子どもたちが勝敗という画一的な基準で評価されがちであり、その結果として早くから激しい競争に晒されるためです。コーチや保護者が子どもの競技成績に過度に焦点を当てる傾向が強まり、それが子どもたちに過度な期待や不適切な負担を与え、結果として発育発達に適さない負荷やバーンアウトを引き起こします。また、遅れて成熟する子どもたちは自身の能力を見出せなかったり、有能感が得られなかったりすることでドロップアウトしていくことになり、貴重なタレントが見過ごされるということに繋がっています。このシステムが勝敗を唯一の尺度にしていなくとも、子どもたちに関わる大人たちが勝敗のみを重視してしまうことにより、その物差しに乗り切れない子どもたちは、次々と脇に追いやられ、最終的にはスポーツから遠ざかってしまうという現象が指摘されています。ここで、勝利至上主義の問題も顕在化します。早期専門化と勝利至上主義は元来別々の問題として出発したもので、それぞれ異なる問題点を有していましたが、実際には密接に関わっていると考えられます。勝利至上主義の問題は勝利そのものではなく、勝利を図1.タレント発掘・育成プログラムの歴史11まいんど vol.38

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