まいんど vol.37 全日本柔道連盟
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 各国の12歳以下の子どもの保護者を対象にした「ケガに関するアンケート」では、子どもが病院に行くほどの受傷をした割合が最も高い国がイギリス(27.2%)で、次いで日本(19.6%)、オーストラリア(12.4%)であることを報告した(第24回)。さらに、これらの国では乱取中に起きたケガが最も多いことも述べた。一方、ケガ割合の少ないフランス(5.5%)では、受傷時の状況は乱取ではなく、ウォーミングアップが最も多い。乱取とウォーミングアップでは、当然、そのケガの内容や部位も異なるはずである。そこで、各国のケガの内容(表1)とその部位(表2)を比較してみることにした。 ケガの内容では、「骨折」が日本(15名)、イギリス(11名)において突出して多い。同様に「靱帯損傷」に関しても日本(10名)、イギリス(9名)が他国と比較しても受傷人数が多い。しかし、両国では脳震盪のような重大な事故は発生していないが、オーストラリアでは2名の受傷が報告されている。ここから何が読み取れるのだろうか。 日本、イギリス、オーストラリアの3国は、いずれも乱取中の受傷が多く、いずれも受・取の攻防のなかで、どちらかもしくはその両方に原因があるのでないかと推測する。以下のようにまとめてみた。【日本】肩(鎖骨)の骨折:投げ技による肩からの落下 ⇒勝負にこだわらない安全な施技が必要【イギリス】上腕骨骨折:投げ技に対する手での防御 ⇒投げ技に対する正しい受身の習得【オーストラリア】頭頚部への受傷:受取両方の未熟な技術での乱取 ⇒乱取の前段階での安全な技術の習得 フランスやオランダのケガが少ない理由として、乱取が少なく練習時間も短いことも挙げられるが、幼少期から早期からさまざまな身のこなしの習得に時間を費やす指導法にもある。今後、一般の教育として柔道を普及させるには、柔道は「ケガをするから危険」ではなく、むしろ「受身」を利用したケガから身を守る柔道という別軸の観点を普及させていく必要もあるのではなかろうか。教育普及・MIND委員会 教育普及部会 文/曽我部晋哉(甲南大学 教授)各国のケガの状況から何が読み取れる!? 26回目 教育普及・MIND委員会では、日本の柔道教育普及活動をより充実させるために、各国連盟の協力のもと、世界の柔道最新事情や取り組みについての調査・報告をしております。第24回、第25回のトピックでは、各国のケガの状況を深堀するために、受傷経験、練習内容、練習時間、練習量を比較してきました。26回目となる本稿では、ケガの内容やどの部位を受傷したのかを明らかにすることによって、各国のケガの原因について考察をしてみたいと思います。◀表1.各国のケガの内容▲表2.各国のケガの部位

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