まいんど vol.34 全日本柔道連盟
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 巻頭言の中長期基本計画で触れましたが、柔道の持つさまざまな価値を用いて普及振興を図ることが柔道発展のカギとなります。 その価値の一つに受身の効用があります。入門して誰もが最初に身につける受身は、安全な社会生活を送るための、かけがえのない財産となります。県柔連単位で取り組む今年度の普及事業公募企画は、転び方指導に特化して6県が採択され、独自の取り組みを行っています。そこで今回の特集では、受身指導を基本とした普及活動に焦点をあてます。【未就学児】 少子化や社会環境の変化で、活動的な外遊びが減少したことにより、転んでも手が出せずに顔面、頭部のケガをする子どもたちが増えています。また、個の尊重を重視するあまり、他人への思いやりや礼節が疎かになってしまうことも問題となっています。 そこで、幼稚園や保育園で受身体験を通して身体を守る技能を身につけたり、礼節の大切さを指導したりするなかで、柔道の素晴らしさを伝える取り組みが各地で行われています。現在、【子ども転び方ワーキンググループ】では、本年2月、3月に開催したWEBでの全国シンポジウムで課題を共有するとともに、標準的な指導法の確立に向けて、検討を進めています。【小学校】 小学校でも、体育の授業での受身体験を通した指導が進められています。柔道の素晴らしさを紹介したいと学校に提案しても、大部分の学校では時間的余裕がないと断られます。しかし、小学校で問題となっている転倒事故防止に力を発揮する転び方指導という観点で働きかけると、受け入れる学校が増えています。県柔連単位での組織的な取り組みも進んでいます(P26参照)。 この取り組みは小学校での安全指導に貢献するとともに柔道理解が進み、中学生なってからの柔道授業や柔道部活動への導入としても好影響が期待されます。【シニア層】 受身の効用は子どもに対してだけのものではありません。シニア層にも高い有用性があります。高齢者が転倒して受傷したことを契機に、寝たきりの生活になり認知症を発症してしまう事例も報告されています。高齢化社会のいま、健康生活の維持は社会全体の課題でもあります。 そこで、シニア層への転び方指導ワーキンググループを特設して、対策を検討しています。受身を活用した転び方指導から、コグニション(認知)とエクササイズ(運動)を組み合わせた『柔道コグニサイズ』の取り組みを通して、健康生活の維持を目指します。 特にヨーロッパ各国では、この分野の実践研究が盛んに行われています。そこで、ヨーロッパ各国のシニア層向け先進指導事例を紹介するとともに、今後の日本での指導の在り方を考えていきます。(普及振興部長 田中裕之)子どもから高齢者まで――世界が注目する『受身』全柔連が取り組む『転び方プロジェクト』とは巻頭特集総論4まいんど vol.34

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