まいんど vol.34 全日本柔道連盟
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メディカル編ゼミナール柔道JUDOこのコーナーでは選手、指導者を対象に、それぞれのスキルアップに役立つ話題(コンディショニング、トレーニング、栄養、心理、メディカル、コーチングなど)を紹介します。指導者のスキルアップのための東海大学スポーツ医科学研究所所長。日本整形外科学会専門医・スポーツ医、日本スポーツ協会公認スポーツ医。現在、全柔連医科学委員会副委員長で、96年から08年までナショナルチームドクターを務めた。PROFILE解説:宮崎誠司東海大学スポーツ医科学研究所 所長突然死の発生頻度は一般人の参加するマラソン大会などでは0・5〜1件/10万人、スポーツ選手においては1年間に10万人当たり1〜2人程度と推定されています。全日本柔道連盟障害補償見舞金制度の統計では、2003年以降に心臓疾患による重大事故は14例の報告があり、そのうち13例が亡くなっています。年齢層は20歳以下の若年にもみられますが、40歳以上に多くみられます。20歳代であっても心筋梗塞などの虚血性心疾患がみられます。また、JSCの学校事故事例検索データベースのなかにも、寝技で胸を圧迫され心停止を起こした例もあり、その他にも心臓しんとうが疑われる症例報告もみられます。そのため、できるだけ多くの人が、心肺蘇生法として心臓マッサージ(胸骨圧迫)の方法を習得するだけでなく、素早い電気ショックを可能にする機器である自動体外式除細動器(AED)の使い方や設置場所をよく知っておく必要があります。Ⅰ スポーツ中の突然死・心停止スポーツ中や直後に起きる心臓突然死のほとんどは、心室細動と呼ばれる致死性不整脈の発症によるものと言われています。心室細動は発症から数秒以内に意識を失って倒れ、数分以上放置されると死に至るものです。心室細動を発症すると、心室が小刻みに震えて正常に収縮しなくなり、心臓から脳や臓器へ血液が十分に回らず意識不明に陥ります。この状態のまま放置するとやがて心臓が停止するため、命をつなぎとめるためには即座にAEDで電気ショックを与え、除細動することが必要です。一般に、運動中の突然死の原因は、若年者と中高年ではまったく異なります。若い人の場合自覚症状のない未発見の心筋の異常(肥大型心筋症、拡張型心筋症や不整脈原性右室心筋症、図1)や不整脈をもたらす他の心疾患(QT延長症候群やブルガダ症候群など)や先天的な冠動脈奇形や大動脈瘤も、突然死の原因となる可能性があります。最も多いのは肥大型心筋症であり、体が大きくなり運動強度が増える中学生から高校生くらいに多いことがわかっています。一方、中高年では動脈硬化による心筋梗塞が多くみられます。体重が多く、肥満傾向の人や血液中の脂質(中性脂肪やコレステロール)が高い人、糖尿病や高血圧などがある人は動脈硬化になり、心臓に血液を運ぶ冠動脈が狭くなっている場合がありますので、健康診断などを定期的に受けましょう。たとえ心臓に病気がない場合でも、心臓の直上に比較的弱い衝撃を受けた際に、突然不整脈が起こることがあり、これを心臓しんとうと言います(後述)。また、いずれの運動選手でも、 喘息や 熱中症になったときや、アンチドーピング規定で禁止されているような薬物(たんぱく同化ステロイドや麻薬など)の使用が、突然の不整脈による死亡を引き起こしている可能性があります。Ⅱ 心臓しんとう心臓しんとう(commotio cordis コモシオ コルディス)は胸部に衝撃が加わったことにより心臓が停止してしまう状態です。多くはスポーツ中に、健康な子どもや若い人の胸部の心臓の真上あたりに比較的弱い衝撃が加わることにより起こります。比較的弱い衝撃とは胸骨や肋骨が折れるとか、心臓の筋肉が損傷するような強い衝撃ではありません。子どもが投げた野球のボールが当たる程度の衝撃で起こります。心臓しんとうは衝撃の力によって心臓が停止するのではなく、心臓の動きのなかで、あるタイミングで衝撃が加わったときに、心室細動が発生することが原因と考えられています。18歳以下がほとんどで、発症早期の心臓マッサージ(胸骨圧迫)とAED突然死は「瞬間死あるいは発病後24時間以内の内因死」とされ、原因のわかったなかでは心疾患が最も多いと言われています。独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)の災害共済給付制度によると、2005年から2019年に学校管理下(幼稚園から高校まで)のスポーツ活動中の突然死は60%以上が心臓疾患によるものということがわかっています。今回は、心停止、心臓しんとうについてとその対処法を説明します。柔道における突然死心停止、心臓しんとう30まいんど vol.34

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