まいんど vol.33 全日本柔道連盟
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▲クラブの仲間とオリンピック2連覇のハリソンさん(左から3人目)の講習会に行った際のワンショット(ハリソンさんの右隣が池内さん)▶東北大学の同級生たちと――柔道を始めたきっかけは?「高校に入学後、部活動の見学に行ったら女性の先輩が3人いて、その投げている姿が格好良くて、やってみたいと思ったのがきっかけです。体全体を動かすのが楽しくてのめりこみました。兵庫県は女子のレベルが高かったので、戦績は県大会2回戦進出くらいが最高成績でした。その頃は大外刈や大内刈が得意で普通の柔道をしていました」――大学は、寝技の伝統を誇る東北大学に進学しました。「最初は続けるつもりはなかったのですが、高校の先輩が男子にいたので見学に行ったら結局続けることになってしまって。1年生のときに出場した七大学戦で、他大学の先輩に寝技でボロクソにやられて、『このままでは辞められない』と。そこからは寝技に打ち込みました。大学では、相手を亀にして横三角絞で攻めるのが得意のコースになりました。部員が少なかったのでよく出稽古に行きました。近くの東北福祉大に一人で自転車で行って…最初はすごく緊張しました。ただ自分よりレベルの高い相手でも、何回もやっていると技のクセがわかり対応できるようになってきて、上達を実感できました。名古屋大の女子と一緒に天理大に合宿に行ったこともあります。強豪選手とも寝技であれば対等に戦うことができて、寝技は練習すればするだけ強くなれるんだと実感しました」――免疫学の研究に進まれたきっかけは?「大学4年の免疫学の授業で、耐性菌について教わり衝撃を受けたんです。人間がある細菌に対して抗生物質を作り出すと、今度はその抗生物質に適応して細菌が変化するというそのイタチごっこに、生命のしぶとさを感じて、もっと知りたいと思うようになりました」――研究職の魅力は?「現在、歯医者のバックグラウンドを生かして歯周病の免疫の基礎研究をしています。普段やっているのは、動物実験とそこから得たデータの解析です。論文に直接入れられるようなデータが得られるのは5%ほど。条件検討などの準備実験を含め95%は失敗です。そういう意味では大変なのですが、とても中毒性があります。なぜなら出会うのは常に新しいことばかり。成功しても失敗しても、それによって新たな知見が得られ、世界の在り方が上書きされていくような感じで飽きることはありません。それに、これは自己満足の部分もありますが、世界で初めてこの結果を知っている、この現象を客観的に見ているのは自分だけ、という興奮もあります」――柔道はいまのお仕事にどのように役立っていますか?「自分の研究者としての強みは、『コミュニケーション能力』と『諦めないこと』だと思っています。それは柔道から得た部分が大きいです。研究はチームで取り組むことが多いので、困ったときに助けたり助けられたりできる人のつながりを作ること。あとは自分の仕事をきちんと見て、評価してくれる人を見つけることが大切です。その点、学生時代に出稽古を重ねて、知らない相手ともいい練習ができるように、関係を築く経験ができたのは大きかったと思います。諦めない気持ちは、やっぱり東北大での寝技の練習のおかげかな(笑)」――アメリカでも柔道を継続。「いま勤めている研究所のなかに、地域に開かれた柔道クラブがあって、そこに通っています。練習は週3回、1回2時間ほど。普段は打ち込みをやって、寝技乱取り、立技乱取りという日本と変わらないメニューです。メンバーは10代から80代まで30人ほど、自分のペースで楽しんでいます。柔道はアメリカではそれほどポピュラーなスポーツでないので、基本的に誰でもウェルカムです。コロナでクラブ自体が2年ほど休止していたのですが、そろそろ再開できそうなので、楽しみです」――池内さんが考える柔道の魅力とは?「柔道は、男女関係なく楽しめますし、もっと言えば年齢も職業も関係ない。柔道が好きということだけで、つながれる。それに仕事でのつながりより強いつながりが得られると思います。日本だとほとんどの人が競技柔道からスタートすると思います。特に日本の柔道は基本を大事にしますよね。大会で結果を残せなくても、身につけた技術は体に残ります。それをどう生かすかは本人次第。もちろん競技で活躍できる人は、それで上を目指せばいいですし、仮に結果を残せなくても、身につけた柔道は長い人生で見たときに人生を豊かにしてくれます」諦めない気持ちは、東北大での寝技の練習のおかげ池内友子  いけうち・ともこ1981年生まれ。兵庫県神戸市出身。県立長田高校で柔道を始める。東北大学歯学部進学後は、東北大柔道部で寝技を磨き、七大学戦に5年生まで出場。歯学部博士課程を終了後、アメリカ合衆国で最も歴史のある医学研究の拠点であるNIH(National Instit utes of Health アメリカ国立衛生研究所)にポスドクとして留学し、基礎研究の面白さにのめり込む。現在は、NIHの職員として免疫学研究にさらに打ち込む日々。PROFILEやわらたちのセカンドキャリアやわらたちのセカンドキャリア〜私たちの選択〜〜私たちの選択〜大学時代に受けた耐性菌についての授業をきっかけに免疫学の世界に飛び込み、柔道を通じて培った「コミュニケーション能力」と「諦めない強さ」を生かし、研究者として活躍する池内友子さんを紹介します。池内友子さんが選んだ道免疫学者FILE.1816まいんど vol.33

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