まいんど vol.32 全日本柔道連盟
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適切な『スポーツ-仕事-生活』のバランス彼女はパートタイムでしか働けず、大事な試合の前に仕事をやめる必要があるため、選手として生活していくには、毎日多くの調整と家族、経済、プロとしての特別な犠牲を必要とします。また、彼女の成功したスポーツキャリアは、トレーニングや試合で不在になるのときに家や子どもたちの世話をする夫、遠くに住んでいても、しばしば彼女をサポートするために来てくれる彼女の両親、そして彼女のために車を運転したり(彼女は障がいのために運転することができません)、または子どもたちの世話をしたりしてくれる友人を含むさまざまな人たちとの長年の協力の結果です。「私の生活は、全仏パラリンピック柔道チームの試合と合宿のために柔道を全力でやっている週と、子どもたちの世話をするために働く週で構成されています。そうしたときの柔道の稽古は、近くのクラブに行ったり、家で筋トレをしたり、また、私が住んでいる場所から1時間以上離れたところにあるハイレベル地域柔道連盟センターにも行き稽古をしたりします。それは理想的ではなくて、疲れますし、もしかしたら過去のケガに繋がっていた可能性もあるのです」と分析もしています。しかし、彼女は次のように認めています。「柔道だけに集中していれば、もっと成績は良かったかもしれませんが、理学療法士として仕事を続けることは自分のバランスのために必要だったのです」これらの3つの生活をバランスよく切り盛りするのは難しいかもしれませんが、これはサンドリンにとってはエネルギーを創り出し、40代に近いにもかかわらず競争を続ける意志を支えるものでもあります。「どの週においても、柔道に集中しているときも家族と一緒にいるときも、私は常に100%の全力です」と彼女は付け加えます。東京2020パラリンピックは彼女の最後の大会となるはずでしたが、決勝で敗れたことは大きな失望でした。ですから彼女は、2024年のパリ・パラリンピックまで続けることを決心しました。また、その大会は観客と一緒に、スタンドには彼女の家族がいて、母国での開催でもあるからです。障がい者の柔道競技のレベルは年々大幅に向上しているので、患者を数週間追跡する必要がある理学療法士として、トレーニングと仕事を同時に行うことはもはや不可能になったと彼女は考えています。フランスでは障がい者柔道が注目されてきていて、サンドリンは次のパラリンピックで金メダルを争うために、仕事を減らして練習に集中できるように援助資金を受け取っています。 柔道の貢献サンドリンは、彼女が社会で果たすべき役割を担っていることを認識しています。「私のキャリアは他の人に奉仕し、スポーツ全般、特に柔道が自らを鍛え強くしていくことができる素晴らしいツールであることを示していく必要があります。柔道やスポーツをすることは人間の体、健康に役立ちます。それは人々が人々に会い、社交することを可能にします。障がいのある人はその障がいを隠して自分自身に引きこもる傾向があるので障がいを持つ人々にとっては非常に重要です。柔道は、自分を超えて、自分が思っている以上の能力を発揮する方法を教えてくれます。それは誰でも自分自身の目標を設定し、自分自身がその目標を達成しようとしている限り、自分の日常生活のなかで、より幸せになることを可能にします。怒りやストレスを和らげるのにも最適な競技です」 柔道は彼女の人生を変えました。柔道には、相互の福祉や利益などの道徳的価値観があります。彼女が柔道を始めたのは少女のときでしたが、柔道には道徳的規範があり、他の競技では必ずしも促進されない他の人々への尊敬と精神性があることを知っていました。学校で嘲笑され拒絶された障がいのある少女として過ごしてきた彼女は、柔道においては他では見られなかった尊敬を受けました。「柔道は私に自信を与えてくれ、友だちをつくり、多くのことに、練習すれば勝つことができることを証明してくれましサンドリーヌ・マルティネ(フランス)後編柔道人THE柔道を愛する仲間たち戦う人第17回東京2020のパラリンピック・フランス代表の旗手を務め、パラリンピックには5回出場し、金メダル1つ、銀メダル3つを獲得、そして世界選手権では2回優勝という輝かしい成績を収め、障がい者スポーツにおける憧れであり、成功の象徴となっているサンドリーヌ・マルティネさん。2児の母であり理学療法士。家庭生活と専門分野およびスポーツ活動において素晴らしいバランスをとっているマルティネさん(サンドリン)のご紹介、後編です。(文=ピエール・フラマン/広報委員)PROFILEサンドリーヌ・マルティネ1982年11月10日、フランス出身2004年アテネ・パラリンピック以降、東京大会まで5回のパラリンピックに出場。2016年リオデジャネイロ・パラリンピックでは金メダル、2004年アテネ、2008年北京、そして2021年東京で銀メダルに輝いているほか、世界選手権でも2度、優勝を果たしている。理学療法士であり、2児の母でもある。23まいんど vol.32

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