まいんど vol.31 全日本柔道連盟
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多くは、受傷部位の痛みにより歩くことができませんが、なかには歩ける人もいます。歩ける人でもつま先立ちができないことが多く見られます。表面から見るとアキレス腱断裂部の腫脹と、皮下の陥凹に触れると、同部に圧痛がみられます。うつ伏せに寝たまま膝を直角に曲げた状態でふくらはぎをつかむと健常であれば足首が底屈しますが、アキレス腱断裂があると底屈しません(Simmonds-Thompsonテスト)。 SimmondsテストとThompsonテストはともに、下腿三頭筋の腹部をつかむと健側の足関節は底屈するのに対し患側では底屈運動が認められないという、アキレス腱断裂の特異的な診察法として一般的に用いられます。しかし、正確には診察時の受傷者の姿勢が異なります。Simmondsテストは診察台に膝伸展位で腹臥位にした状態での診察法であり、Thompsonテストは患者を跪かせた状態(膝座位kneeling)での診察法です。画像検査として、単純X線写真はアキレス腱断裂の描出としての診断的価値は低いですが、骨折や骨棘障害などとの鑑別には重要となります。しかし、問診と理学的所見のみで安易に診断を決めつけると、骨折などを見逃したり、歩行可能ということでアキレス腱断裂を見逃す危険性もあります。的確な問診や理学所見で、ほとんどのアキレス腱断裂の診断は可能ですが、確定できない場合には、画像所見と併せて総合的な診断が必要です。アキレス腱の断裂の診断において超音波検査は非侵襲的かつ簡便な検査で、完全断裂の診断においてその診断率は高く、また部分断裂やアキレス腱炎などの診断や保存的治療の経過観察において有用です。【治療方法】治療法は保存療法(適切な固定期間やリハビリ)、手術療法のいずれにもかかわらず臨床成績は良好で、早期運動復帰と筋力の早期回復とを目指した治療が行われています。このうち、後者の保存的治療では長期の固定や免荷(体重をかけれない状態のこと)を必要とし、筋力や関節の可動域の回復が悪くなります。このため、ほとんどの病院でスポーツ選手のアキレス腱断裂の治療には、できるだけ早いスポーツ復帰や二次的障害の少ない手術的治療を第一に選択しているようですアキレス腱断裂を放置すると断裂した部分が短縮し組織が瘢痕化します。切れたアキレス腱は離れ離れになるためそのまま放置しておいても治癒されることはありません。下腿三頭筋が機能しなくなるため筋萎縮がみられるようになります。そのためスポーツ時に走るだけでなく日常の歩行に支障をきたすことがあります。長期間放置することにより可動域制限を生じる可能性があります。また怪我をしてからの期間が長ければ長いほど断裂した部分が離れたり、断裂部が変性するため手術のときに支障をきたします。受傷から早い期間で治療を開始することが重要です。手術療法には統一された方法はないのですが、縫合法に工夫がなされ、後療法に関しても装具の併用で安全性も向上し、術後の機能もほぼ正常に改善されています。活動性の高い症例には有用でありますが、いずれにしても手術合併症の予防には細心の注意が必要です。術後は装具を用いて早期(2~3週間で歩行することが多い)よりリハビリが行われます。その結果、筋力低下、可動域制限は最小限になり、早い時期に歩行、ジョギングが行えるようになっています。保存療法は神経損傷や感染などの手術合併症はなく、再断裂や筋力低下などの重大な合併症を予防できれば有用な治療法と言えます。5日~7日以内で治療を開始する必要があります。一般的な保存治療は2週間足関節最大底屈位でのギプス固定と免荷、その後3週目ギプス固定のまま荷重量を上げていき、約2か月からは装具に切り替えての全荷重歩行を行います。このように2か月間はギプスで固定されるため日常生活で不便を強いられます。保存的装具療法を行うには、従来の治療期間を中心とした外固定期間の設定では困難であり、治療経過中の局所所見や、画像所見などの把握が重要となります。このように保存療法による治療は長期固定による筋力低下や再断裂発生の高さ(手術した場合の約2倍)、スポーツ活動時期の遅延などがデメリットになります。手術の場合は早期のリハビリテーションが可能になりスポーツ復帰も 保存療法に比べ早く、半年で復帰が可能にあるケースもあります。再断裂率は、手術1・7〜2・8%、保存10・7〜20・8%と、手術療法のほうが再断裂の危険が少なく、早期復帰が可能だとする意見が多いため、スポーツ選手は多くの場合手術療法を選択することが多いと言われています。【復帰までのポイント】再断裂を防ぎつつも、筋力低下、可動域制限等問題を起こさないようにすることが重要です。保存治療で一番危惧されることは再断裂であり、発生率は約10%とされギプスまたは装具除去後1か月以内(受傷後2~3か月)が一番危ないとされています。また4か月を経過しないと再断裂の危惧は少なくならないため、治療は長期間に及びます。復帰については医療機関と相談し、適切に行ってください。Simmonds-Thompsonテストアキレス腱の縫合方法31まいんど vol.31

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