まいんど vol.27 | 全日本柔道連盟
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柔道と腰痛格闘技である柔道はその競技特性上、多くのケガが起こる。とくに、突き指や捻挫のような1回の強い外力で受傷する〝外傷〟の発生頻度が高い。一方、練習やトレーニングの継続により、慢性的に身体にストレスが溜まり、徐々に痛みが生じる〝障害〟も多くみられる。腰痛は〝障害〟のひとつで、日本の大学柔道選手のおおよそ35%が腰痛を抱えたまま競技を行っていると報告されている。さらに、それらの大学柔道選手を対象に、レントゲンとMRIを撮像して、脊柱(背骨)の異常所見を調査した結果、82名中67名(81・7%)に何らかの異常所見を認めている。脊柱は24個の椎骨と仙骨で構成されており、S字状のカーブを形成しているのが、自然な形状である(図1)。その椎骨と椎骨の間に存在し、クッションの役割を果たしているのが椎間板である。前述の研究の異常所見の内訳をみると、最も多かったのが椎間板の退行変性であった。本来、椎間板の中心部分には水分を多く含んだ髄核という組織があり、クッションの役割を果たしている。しかし、繰り返しのストレスが椎間板にかかることで、この水分が徐々に失われ、クッション性の低い組織となってしまう。これが退行変性である。通常、椎間板には神経があまり入り込んでおらず、痛みの原因となりにくい組織である。しかし、繰り返しのストレスによって椎間板が傷つくことで、その部分を修復するために神経と血管が椎間板に入り込んでいく。このことで、椎間板にストレスが加わった際に、痛みを感じるようになる。この椎間板にストレスをかける原因として、垂直方向の強い力や脊柱が丸まったような前屈姿勢がある。そのため、反るような動作では痛くないが、前屈動作で腰痛が起こる場合、椎間板性腰痛を疑う重要なポイントとなる。また、画像には異常所見を認めないが、腰痛を有する選手も存在する。その原因の一つが〝筋筋膜性腰痛〟である。直立姿勢を維持するために、背部の筋は重要な役割を果たしている。とくに柔道では、姿勢保持のために、また相手を引きつけるために、いわゆる背筋と呼ばれる脊柱起立筋が非常に強い力を発揮している。このような強い筋肉の収縮を繰り返すことで、筋自体や筋の周囲を取り囲んでいる筋膜、筋が骨に付着する部分に強いストレスがかかる。この繰り返しのストレスで起こるのが筋筋膜性腰痛である。この腰痛の特徴は、その筋を指などで圧迫すると痛みがあることや、筋を収縮させることで痛みがでることである。マットレスが寝姿勢に及ぼす影響脊柱に異常所見を認めるようになるほどの負荷や疲労から身体を回復させるためには、適切な睡眠が非常に重要である。そのため、寝具は身体に合ったものを選ぶ必要がある。実際に、マットレスが柔らかすぎると、〝腰が沈んで、朝になると腰に痛みを感じる〟という声を聞くことが多い。逆にマットレスが硬すぎても身体にかかる局所的な圧が高くなり、熟睡できない。そのような睡眠状況では、適切な身体の回復は難しい。そのため、マットレスが、寝姿勢にどのような影響を与えるのかを知ることは、適切な身体回復とパフォーマンス向上のために重要である。そこで、マットレスの硬さが仰向けで寝ている際の脊柱の姿勢に与える影響を、MRIを用いて検証した。対象は体型の異なるアスリートと一般成人合計6名(男女各3名)とした。マットレスはエアウィーヴ社製のアスリート特殊仕様マットレスを使用した。このマットレスは硬さの組み合わせを身体部位ごとに変えることができ、選手一人ひとりに合うようにカスタマイズできるという特徴がある。今回使用したマットレスの組み合わせは、①全身のマットレスの硬さが標準、②上半身部分が柔らかめで腰部と下肢部分が硬め、③腰部と下肢部分が柔らかめで、上半身部分が硬めの3条件とした(図2)。その結果、腰部が柔らかめの②では、上半身部分の沈み込みが少ないことと、下位腰椎と仙骨の前傾角度が小さくなる(より脊柱が一直線に近くなる)ことが示された(図3、4、5)。このことから、マットレスの部分的な硬さの違いは、実際に寝姿勢に影響を与えることがわかる。さらに、同じマットレスの組み合わせでも、選手の体型や体重によって姿勢変図1 脊柱と椎間板図2 研究に使用したマットレスの硬さパターンと特別企画金岡 恒治(早稲田大学スポーツ科学学術院教授、日本水泳連盟医事委員長、整形外科医)阿久澤 弘(早稲田大学スポーツ科学学術院助教)窪田 千恵(株式会社エアウィーヴ)柔道選手睡 眠26まいんど vol.27

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