『柔道は今、最高に燃えている!!』
4年に1度の世界の祭典であるオリンピックの代表選考会とあって、福岡市民体育館には定員をはるかにオーバーする4,000人を超す柔道ファンが詰めかけた。
 そんな雰囲気の中で『アテネへ行きたい』という思いは、どのクラスの選手も同じで、その緊張感は計り知れない。7階級中、100kg超級と100kg級以外の5階級で代表が発表されたが、各クラスともたった1つの椅子を目指して熱気に満ちた戦いが展開された。
 100kg級で世界V3の井上康生の感動的なオール一本勝ち、60kg級の野村忠宏も史上初の五輪V3へ弾みをつける優勝を飾ったが、まさかの番狂わせも生じた。2人の世界チャンピオン、棟田康幸(100kg超級)と鈴木桂治(無差別級)が敗れたのである。
 だが、戦いはまだまだ続く。29日の全日本選手権大会で、この2人はアテネへの切符を狙って巻き返しを期している。

大会注目ポイント


 2004年のフランス国際を制した野村(ミキハウス)が、浅野(東海大)平岡(筑波大)を退けて決勝へ進出。徳野(神奈川県警)は高橋(秋田県警)にポイントの先取を許すも後半逆転して準決勝へ、しかし江種(警視庁)に敗退。決勝は手の内を知り尽くしている天理大の同門対決、野村が接戦を制する。

勝ち上がり表(各試合ムービー)

『苦しんだ野村忠宏!しかし、視線はV3,アテネで金へ!』
 野村忠宏は、まだ全盛期の出来には戻っていない。だが、苦しみながらアテネへの道を拓らいた。
 1回戦の浅野大輔にこそ見事な裏投で一本勝ちしたが、準決勝の平岡拓晃と決勝の江種辰明には手を焼いた。『一本を狙う柔道』が野村の本領だが、とにかく攻め続けて勝利を収めなければという思いが強かった。得意の足技も独特の背負投もなかなか決まらなかった。
 平岡には、攻め続けて内股の有効。江種には、袖釣込腰,大外刈,払腰と技を出したが、結局指導1回の優勢勝ち。それでも危なげは全くなかった。『ハッキリ言って自分らしさが出なかった。でも、アテネではもう1度自分の柔道を見たいと応援してくれる人のために、金メダルをとりたい』とアトランタ,シドニー両五輪に続く3大会連続金メダルを心に誓った。
 29歳の野村は『気持ちを燃えさせるためには、体力が必要』と思っている。本番まで残り4ヶ月。野村は極限まで自分を追い込んでアテネに行くつもりだ。


 2003年の講道館杯、2004年のドイツ国際と優勝を果たしている内柴(旭化成)は小室(了徳寺学園職)、北川(盈進学園教)を退けての決勝進出。一方、2003年世界選手権代表であり2004年のフランス国際優勝の鳥居(了徳寺学園職)は、村上(天理大)さらにはGSで篠崎((了徳寺学園職)を制して決勝へ。両者激しい攻防の末、試合時間終了間際の内柴の左背負投に鳥居堪えきれずに効果を奪われる。

勝ち上がり表(各試合ムービー)

『内柴正人 食べられて自分の柔道が出来た! アジアで勝ってアテネだ!』
 60kg級から階級を上げた内柴正人が生々とした柔道で優勝した。
 1回戦の小室宏二を一本背負、準決勝の北川勝広にも攻撃に次ぐ攻撃で効果を奪い、決勝の鳥居智男に対しても、本命視された男から残り9秒、低い姿勢からの背負投で効果を取って堂々の勝ち星をつかんだ。
 前年、減量の失敗から体重オーバーで失格した時とは別人のような動きとなった。『60kg級で期待を裏切り続けたが、3食食べられるようになってスタミナがついた。1年でこんなに世界が変わるなんて。奥さんや支えてくれた人に恩を返したかった』と内柴は涙で喜んだ。
 66kg級は五輪出場枠を獲得しておらず、5月のアジア選手権(カザフスタン)で出場枠を確保しなくてはならない。内柴は自らここで勝って、アテネを目指す試練が待っている。


 田中(横浜市立奈良中学教)、渡辺(明治大)に勝って決勝進出を決めた高松(了徳寺学園職)に対して、金丸は一回戦の園田(東海大)に敗退を喫する。2試合一本勝ちの好調な園田に対して、高松は園田の背負投の戻り際を巧く捉えての小外刈は見事に決まって一本。

勝ち上がり表(各試合ムービー)

『攻めて優勝!高松正裕、アテネも攻め続けて「金」を!』
 今年のフランス国際でも6戦「5」一本勝ちで優勝した高松正裕が自信の柔道で勝った。
 1回戦の田中秀昌を大外刈、準決勝の渡辺一貴に対しても、徹底した攻めで圧倒。効果2つと指導2回で下し、決勝の園田悠二には残り25秒の時、相手の虚を突く小外刈で一本を取った。
 『攻め続けてスタミナ負けしない自信があった。外人対策として、さらに攻め続ける練習を積みたい』と夢の五輪代表を心から喜んだ。
 高松は外人に強い。頼もしい男である。


 2003年の講道館杯で大活躍した谷口(東海大)は、1997年のバーミンガム世界選手権代表である塘内(旭化成)の体落で一本負けを喫する。この接戦を制して勢いに乗った塘内は、準決勝で2003年世界選手権代表の秋山(平成管財)を制し、決勝ではシドニー五輪の優勝者瀧本(埼玉栄高職)を見事な袖釣込腰で一本をとる。

勝ち上がり表(各試合ムービー)

『バーミンガムの屈辱を晴らすか塘内将彦。甦った獅子がアテネに!』
大混戦の81kg級。秋山成勲、中村兼三、瀧本 誠の三つ巴と思われたが、勝負はわからぬもの。最後に笑ったのは、忘れられた存在の1999年の英国バーミンガム世界選手権代表だった塘内将彦だった。
1回戦の谷口 徹を鮮やかな体落で破ると準決勝の秋山成勲にも効果勝ち、決勝ではシドニーの金メダリスト瀧本 誠と対決。疲れた瀧本を一瞬の袖釣込腰の大技で倒した。
 バーミンガムで初戦負けしてから、長いスランプに陥入ったが、それでも諦めずに同僚の中村兼三と競い合いながら地味な努力を続けてきた。そして、見事に甦った。
 『すごく嬉しいです。アテネではバーミンガムの屈辱を晴らしたい』と静かに闘志を燃や塘内。山下泰裕氏が『塘内のかつぎ技は素晴らしい』という大技が出れば、アテネで花開く可能性がある。


 泉(明治大)は2003年の講道館杯を制し、2004年のフランス国際で優勝するも、松本(神奈川県警)に敗れる。一方、矢嵜は2003年世界選手権代表、2004年ドイツ国際で優勝するも2001年世界選手権代表である飛塚(了徳寺学園職)に敗れる。決勝は大外刈の切れ味鋭い飛塚が制する。

勝ち上がり表(各試合ムービー)

『一から出直しを決意! 泉 浩実績を買われて代表の座を』
 本命視された泉 浩が1回戦で松本勇治の大内返で敗退し、大阪の世界代表だった矢嵜雄大も準決勝で飛塚雅俊の後腰(発表は裏投)で敗れた。決勝は飛塚が松本を大外落で投げて優勝した。だが、アテネ代表には、昨年11月の講道館杯と今年2月のフランス国際優勝の泉 浩が実績を買われて選ばれた。
 斎藤 仁代表監督は『矢嵜との争いだったが、安定度で泉を選出した』と事情を話した。
泉は『今日の結果では無理だと思った。気持ちが空回りして・・・・・。精神面でもっと強くならなければ。一から鍛え直したい』と反省し、心を引き締めた。


 シドニー五輪金メダル、世界選手権3連覇の井上康生(綜合警備保障)は、柴田(セコム)、穴井(天理大)を得意の内股で一蹴する。一方、2003年世界選手権無差別王者の鈴木桂治(平成管財)は、1回戦笹倉(エスティライフ)に優勢勝ちを収めたものの、続く井上智(警視庁)にまさかの一本負けを喫する。決勝は兄弟対決となり、康生の大内刈が見事に決まって一本。

勝ち上がり表(各試合ムービー)

『世界の康生! 全て一本勝ちで優勝。代表の座を掌に納めたか?』
 井上康生と鈴木桂治の頂上対決が予想され「世界一厳しい代表争い」と思われたが、勝負は厳しく、鈴木が決勝を前にしてまさかの黒星を喫した。それも、皮肉なものだった。 鈴木は1回戦で笹倉孝幸に手を焼き、得意の足技が出ず、なんとか有効で勝ったが、準決勝で井上康生の兄の井上智和と顔を合わせた。ところが、わずか2分58秒で智和の谷落をまともに喰らって宙を舞い、畳みに落ちて一本負け。
 大会直前に稽古中に左手中指の靱帯を痛めたというが、いつもの冴えがなく、足技が不発では前進出来ない。
 『自分でもあきれ返っています。自分の力が康生さんのいるところまでいっていないということですか。一から出直すしかありません」と鈴木はショックを隠し切れない。
 井上康生は順調だった。1回戦の柴田 真には3分39秒と時間がかかったが、内容的には「内股」技有2つの合技で文句なし。準決勝の穴井隆将には、柔道をさせずに、開始13秒内股で一本。引きつけて、踏み込みも鋭い跳ね上げで大会随一の美技だった。
 そして、決勝の兄智和にも全く遠慮のない攻撃。1分2秒、右からの大内刈で畳みにたたきつけた。
 『気を緩めちゃいけない。全力でいくからと兄に言って、畳に上がった』そして勝ち、3試合一本でアテネの切符をほぼ確実にした。それでも井上は『まだ、内容がよくない。常に自分の柔道が出来るように精進したい』と言い、29日の全日本選手権大会について『この優勝をステップにして、4連覇を達成したい』と力強く語った。
 全日本選手権大会では、鈴木と棟田康幸のどちらかと決勝対決が予想されるが、井上康生はアテネに向かって全て順調だ。


 2003年の世界選手権で100kg超級を制した棟田(警視庁)は、1回戦の片渕(国士舘大)に苦戦するもGSに入って払釣込足で一本勝ち、続く準決勝も高橋(旭化成)に優勢勝ちを収める。2003年講道館杯を制した森(北海道警)は、生田(綜合警備保障)に一本負け。決勝はなかなか攻めきれない棟田に対して、積極果敢に攻める生田の対決となる。結果は攻めに徹した生田の勝ちとなった。

勝ち上がり表(各試合ムービー)

『技が出ない棟田 準優勝! 4.29「強い棟田」が見られるか!』

 世界チャンピオンの棟田康幸が生田秀和との決勝対決で敗れ、準優勝に終わった。
 この日の棟田は不調だった。1回戦の片渕慎弥にゴールデンスコアの末、支釣込足で一本勝ちしたが、準決勝の高橋宏明とは技らしい技が出せず、指導の差で辛勝。そして、決勝の生田に対しても慎重な試合運びで技らしい技が出ない。結局、指導3回を受けて敗退した。
 勝った生田は『力を全面に出して自分の柔道が出来た。棟田に勝てて力になります』と殊勲星を喜んだが、棟田は『技とかいう以前の問題です。自分の実力がなかったということです』と憮然としたが、全日本選手権大会で「強い棟田」が帰ってくるのか。勝ち進めば準決勝で鈴木桂治、決勝で井上康生との対決が予想される。
 とにかく、柔道ファンの心に訴えるような柔道を披露して欲しいものだ。

(文責:全日本柔道連盟 広報委員会委員長 横尾一彦)
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