|
平成18年全日本選手権大会 「寸評」
|
 |
|
準々決勝 第1試合 森大助 vs 鈴木桂治
試合巧者鈴木桂治(平成管財)のペースで6分間が終わった。判定は白旗3本で鈴木の優勢勝ちであった。講道館規定で行われた今大会は、判定の基準は「有効」以上、ゴールデンスコアの延長はなく、旗判定で勝敗を決する。
鈴木は、このルールをしっかりつかんで、3分35秒の『支釣込足』で森大助(北海道警察)の体を畳に。その直後の3分49秒の『大内刈』では森がうつ伏せになったものの、判定になればポイントの材料になったと思われる。鈴木は、組み手争いから足技で牽制するなど、自分の勝利に確信をもって終了のブザーを聞いた。
|
|
準々決勝 第2試合 泉浩 vs 穴井隆将
残り7秒、すべったのか?とも思われるほど鮮やかな『出足払』だった。勝負をかけて前に出た穴井隆将(天理大生)の左足に、泉浩(旭化成)が足を飛ばして「技あり」。勝負がついた。
泉は、世界王者の力を見せつけた。組み手も技の仕掛けも、常に穴井より先手で攻めていた。自分の組み手が悪いと『巴投』でしのぎ、『背負投』『体落』と攻めたて、2分47秒には組み際からの『左一本背負投』で穴井を肩から落とし「有効」を奪う。穴井は『内股』と返し技を試みたが、態勢が不十分で腰の重い泉を畳につけることができなかった。
|
|
準々決勝 第3試合 棟田康幸(警視庁) vs 生田秀和(綜合警備保障)
出場選手中、最多8回の出場を誇る両者。最重量級同士の対戦もやはりこの大会の醍醐味の一つであろう。勝負は得意技とそれを見極めた返し技による、まさに力学の基本のような大技の応酬で決まった。
序盤、ケンカ四つの組み手争いが続いたが、棟田は積極的に前に出て生田に圧力を掛け続ける。1分40秒過ぎ、組み合った両者。生田が右払腰に入ろうと、右脚をあげたところを棟田、待ってましたとばかりに得意の裏投へ。しかし、生田もまたこの一瞬を狙っていたか、逆に体を浴びせかければ、棟田はたまらず後方にもんどりうって倒れ畳を背負う。
隅落で「一本」。生田はしてやったりの表情で、小さくガッツポーズ。
|
|
準々決勝 第4試合 石井慧(国士舘大学学生) vs 高井洋平(旭化成)
ともに国士舘大学の先輩後輩。いつもであれば同大指導者からの指示が会場に響き渡るが、同門対決故にそれがない。自らで考え、試合を組み立ててゆかねばならない両者。その影響がどう出たか。
高井は両襟を持って優位な組み手で試合を進めるも、小内刈、大内刈で足を飛ばしてけん制する石井に対し、次第に後手後手気味となって行く。そして、中盤、高井に「教育的指導」。
ペースのあがらない高井に対し、石井は体落で攻め、徐々に流れをつかんで行く。石井は組際の大外刈、さらには高井の内股に対し逆に体をあずけ、再三高井を腹ばいに倒す。4分40秒過ぎ、石井は2段モーションの大内刈に行けば、高井はしりもちをつき「有効」。
残り1分。石井は前に出ず、あせる高井の技をしのぎ切った。
|
|
準決勝 第1試合 鈴木桂治 vs 泉浩
世界王者同士の戦いは、残り53秒に鈴木桂治(平成管財)が放った『小外掛』で、泉浩(旭化成)を畳につけ、「有効」には至らなかったが判定における大きなポイントとなった。
カイロ世界選手権で鈴木は100kg級、泉は90kg級を制した世界チャンピオンである。体重差も10kg程度と大きな差がないだけに、鈴木の方が警戒した試合運びであった。組み手の争いの中、足技で牽制する鈴木に対して、泉は組み際や不利な組み手でも技を先に仕掛けたが、鈴木の体を畳につけるまでにはいかなかった。鈴木は、ワンチャンスを待っていたかのように、相手を畳につけると無理をしなかった。ラスト2秒で泉が『大内刈→小内刈→送足払』を掛けたが空を切った。判定は3本の赤旗が上がった。
|
|
準決勝 第2試合 生田秀和(綜合警備保障) vs 石井慧(国士舘大学学生)
打倒・鈴木への難関である棟田を一発で仕留めた生田、1回戦から3連続一本勝ち、そして先輩・高井を降した石井、ともに勢いに乗る両者の顔合わせ。
開始30秒過ぎ、石井が思い切りよく左大内刈に入れば、生田は棟田戦に続き、返し技に行った。だが、石井の鋭敏な反射神経はそれを許さなかった。最後まで掛け切る大内刈に生田はこらえきれずしりもちをつき「有効」。
さらに、石井は体落、大内刈で攻め立て、生田に反撃の隙を与えない。2分40秒過ぎ、石井は再び大内刈で「有効」を奪った。
石井は生田の引き手を制し、生田の内股を完全に封じて、守りにまわった。生田の内股は引き手が効かず、効なくタイムアップ。
|
|
決勝 鈴木桂治(平成管財) vs 石井慧(国士舘大学学生)
“3冠王者”の鈴木の3連覇達成なるか注目されたこの大会。鈴木はアテネ五輪からの連勝記録を伸ばすものの、棟田ら最重量級陣は精細を欠き敗退。孤高の王者の前に名乗りをあげてきたのは、日々、胸を貸している後輩であった。
日本柔道の屋台骨を背負い、常勝が命題の鈴木、初出場で昇竜の勢いのチャレンジャー石井、まさに好対照の両者。
試合展開は鈴木の方が一枚も二枚も上手だった。鈴木は石井の組み手を完全に封じ、内股、小外刈、小内刈、足車で攻め立てる。石井は間合いを詰めることができず、技が出ない。4分過ぎには石井に「教育的指導」が与えられた。その後も、鈴木のペース。
だが、残り6秒、石井は「唯一(桂治先輩を)投げられる技」で最後の奇襲を仕掛けた。組際から飛び込みながら大内刈に入りタックル。「有効」。
終了間際、観衆の多くが「旗判定で鈴木」と思ったであろう、あるいは鈴木の脳裏にも賜杯がよぎったのかも知れない。悲鳴と歓声、どよめきが錯綜するなかでブザーが新・王者の誕生を告げた。
石井はお世辞にも並外れた資質や技のキレが光る選手とは言えないだろう。しかし、最後の最後まで技を掛け切り、決める。そしてそれを支えているのは、豊富な稽古量であることは言うまでもない。「練習量がすべてを決する柔道」(井上靖著『北の海から』)そんな形容がふさわしい、王者誕生の瞬間であった。
|
|
文 全日本柔道連盟 広報委員 三浦 登、渡邉昌史
写真協力 ウメダフォトスタジオ 03-3234-0275
|